「トランプ大統領でも頼らざるをえない日本」 特殊な状況に着目する英米紙

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 北朝鮮が8月29日早朝に発射した弾道ミサイルは、北海道・襟裳岬上空を通過して同岬の東方約1180kmの太平洋上に落下した。これにより、全国瞬時警報システム(Jアラート)が配信され、一般市民も北のミサイルの恐怖を実感することとなった。これでさすがに多くの日本人が「平和ボケ」から目覚めたと信じたいが、一方で、「しょせんはアメリカ頼み」と自分で自分の身を守ることに対するあきらめの声も聞こえてくる。

 海外メディアはこうした日本の市民感情を踏まえ、「平和憲法による軍事的制約下にある」という日本の特殊事情に着目している。ワシントン・ポスト紙(WP)は「日本は混乱を極めるトランプ政権であっても、アメリカに従うほかに選択肢はない」と指摘。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、8月17日の小野寺五典防衛相と河野太郎外相の訪米を受け、アメリカは「ドナルド・トランプ就任以来、28回目の日本防衛のコミットメント(関与)」を再確認させられたと報じた。いずれも、憲法改正を経て自立を目指す安倍晋三首相の野望とは裏腹に、北朝鮮危機により日本の現実が浮き彫りになったという論調だ。

◆トランプ政権に28回目の再確認
 もともとトランプ政権に批判的な論調が目立つWPは、8月27日付のオピニオン記事で、トランプ氏を「混乱し続ける予測不能な大統領」と表現。一部のヨーロッパ諸国はそんな危うい今のアメリカと距離を置きつつあるが、日本はそうしたくてもできない状況にあると見る。「目の前の北朝鮮の脅威に直面すると同時に、台頭する中国から長期的な挑戦を受けている日本」は、「混乱中のワシントンに自身を委ねざるを得ない状況」であり、日本政府は新任の小野寺・河野両大臣を派遣して「日米同盟に倍賭け」したとしている。

 小野寺・河野両大臣は8月17日、ワシントンで米側のジム・マティス国防長官とレックス・ティラーソン国務大臣と安全保障協議委員会(2プラス2)を開いた。日本側のおもな狙いは米側の「核の傘」の提供を含む日本防衛へのアメリカのコミットメントの再確認だったというのが、WPやFTの見方だ。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)も、「平和憲法によって長年軍事力が制限されてきた日本は、特に安全保障の面でアメリカとの関係を弱めるつもりはない」として、「朝鮮半島情勢が緊迫する中、両国の同盟をしっかりと固めた」と2プラス2の成果を評価している。

 いつでもミサイルを打ち込めると脅してくる相手に対し、それがいざ実行されるという段階で、軍事力の行使が制限されている日本が自力でできることは少ない。トランプ政権がいかに気まぐれであっても、目の前にある危機に対しては、「アメリカ頼み」しかオプションはないというのが、WP、FT、NYTの一致した見方だ。直接的な被害が十分に懸念される日本にとって、「北朝鮮の核開発は根絶されなければならない。そこに一切の議論の余地はない」と、河野外相は2プラス2終了後にWPに語ったという。同紙はこの発言を受け、「日本はそれを実現するために、アメリカに頼り続けている」と書く。

◆「アメリカ頼み」の他に選択肢がない
 河野外相はまた、「アメリカと同盟国は、経済制裁などの外交努力を支援するために、軍事力による効果的な圧力を加え続けなければならない」という考えをWPに示したという。これについて、WPは、「金正恩氏がグアムへのミサイル攻撃を取り下げる意志を示した後、トランプ氏は北朝鮮と話し合いのテーブルに着く可能性を示唆した。しかし、日本にとってはそれでは不十分だ。日本はトランプ氏に、北朝鮮に対して核実験を中止するだけでなく、現在保有している核とミサイルを廃棄することを要求するよう、求めている」と、日米の温度差を指摘している。

 NYTは、安倍首相について、「トランプ大統領を支持する姿勢は揺らいだことがないようだ」と書く。さらに、「彼はトランプ氏の自国での政治的混乱について、めったに批判はおろかコメントすらしない数少ない世界のリーダーの一人だ」とし、その背景に「個人的な心情と同時に、不安定な地域における最大の庇護者として、日本はアメリカを必要としているという強い自覚」があると見ている。

 政治コンサルタント会社、テネオ・インテリジェンスの日本アナリスト、トビアス・ハリス氏も、日本が移り気のトランプ政権に粘り強く追随し、繰り返し庇護の確約を求めるのは「単純に、現実的に他の選択肢がないからだ」と語る。朝鮮半島、あるいは尖閣諸島という「裏庭」での膠着状態を打破するためには、アメリカの関与が必要不可欠だと同氏はNYTに解説している。

◆日本のジレンマの根源は「アメリカ」そのもの
 目の前の現実とは対照的に、安倍首相の長期的な展望は憲法改正・自主独立にあるというのも、各メディアの一致した見方だ。WPは、「念のため言っておくが、日本が今現在トランプ政権に従っているのは、それ以上に良い選択肢がないからだ。(将来的には)日米両国とも日本がより自主独立し、地域でより大きな役割を担う同盟国に進化することを望んでいる」と書く。

また、FTは、日本の世論の一部に、トランプ政権に対する安全保障上の懸念があると指摘する。その一つは、前オバマ政権の政策のほとんどを否定するトランプ政権が、オバマ氏が掲げた「アジア基軸戦略」による北朝鮮・中国の封じ込め政策も捨てるのではないかという懸念だ。また、「アメリカ・ファースト」のスタンスが、「ある特定のタイプのアメリカ大統領は、いざその時になったら日本人の命のためにアメリカ人の命をリスクにさらすことに対して、尻込みするのではないか」という日米同盟の背後に綿々とあり続けてきた懸念を強めているとFTは指摘する。

 同紙は、日本と同じく北朝鮮の脅威にさらされている韓国は、「軍事的・外交的計算に基づいてアメリカとの関係を築いている」と見ている。一方、「アメリカによって書かれた平和憲法によって軍事的制約を受けている」日本は、アメリカに対して韓国のようにある意味で他人行儀なドライな関係を築けず、親子のような一蓮托生な関係にあると指摘。日本のジレンマの根源は、平和憲法を書き上げたアメリカそのものである、とFTは結論づけている。

Text by 内村 浩介