北朝鮮のミサイルは日本の「脱平和主義」を後押しするのか? 英米メディアが考察

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 北朝鮮が先月29日に日本上空に弾道ミサイルを発射したことを受け、日本の脱平和主義が加速するのではないかという見方が英米メディアに広がっている。英インデペンデント紙は『北朝鮮のミサイル実験が日本を平和主義から転換させるか』と見出しを取り、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、『平和主義の日本が軍事力を拡大』と、ミサイル発射2日前に行われた陸上自衛隊富士総合火力演習の様子を交えて自衛隊に対する国民意識の変化を伝えた。英BBCも北朝鮮危機が憲法改正の動きなどに影響を与えるか、日本通の専門家に意見を聞いている。

◆北朝鮮危機が憲法改正の追い風に
 インデペンデント紙は、日本国民は北朝鮮と地理的に近いことにより、「カリフォルニアの住民よりも北朝鮮の脅威を強く感じている」と書く。また、ソウルでは北への敵意が育っているが、日本ではJアラートのサイレンに象徴される「神経質な空気」が広がっていると表現する。

 同紙は、北朝鮮のミサイル実験・核開発問題の背後には、より深刻な事態に発展しかねない米中の覇権争いがあると見る。そして、トランプ政権が中国に対して妥協の姿勢を示す「グランド・バーゲン」を行う様相を呈する中、日本の安全はさらに脅かされつつある状況にあるとしている。北朝鮮危機がさらに深刻化し、それが顕在化すれば、「安倍晋三首相が目指す平和憲法の見直しを後押しする材料になるかもしれない」としている。

 英エクスプレス紙は、BBCの夜のニュース番組で放送された識者のコメントを集め、「日本の軍事力拡大」の可能性を論じている。それによれば、デビッド・ウォーレン元駐日英国大使は先日の北のミサイル発射により、日本をより「軍事的に攻撃的にする」という安倍首相の動きに対する支持が、タカ派を中心に広がったという見方を示した。米シンクタンク、ウィルソン・センターの後藤志保子研究員も、「防衛予算をさらに増やし、(自衛隊の)海外での作戦能力を強化し、上空を飛ぶ北朝鮮のミサイルを撃ち落とす能力を強化する」ことが求められれば、憲法改正の必要性が高まるという見方を示した。

◆自衛隊が戦うアニメや自衛隊員とのデートが流行
 NYTは、街角の市民や富士総合火力演習を訪れた人々にインタビューし、日本の一般市民の意識に迫っている。首相官邸が主導した世論調査によれば、「自衛隊に興味がある」とする日本国民は増加傾向(1980年代後半・55%→2015年・71%)にあるといい、今年の富士総合火力演習の観覧チケットの倍率は6倍という人気ぶりだった、と同紙は伝えている。

 先月29日のミサイル発射直後に東京・池袋の街角でNYTに答えた74歳の男性は「日本人は非常に長く平和に過ごしてきたために、この平和が永遠に続くと思っていた」と語り、「日本は負け犬のような弱い姿勢だ。我々はもっと強い軍隊を持たなければならない」と訴えた。また、富士総合火力演習を家族・友人と見に来た建設会社勤務の60歳の男性は「アメリカと韓国が戦争をすれば、日本も参加しなければならない」と語った。NYTは、こうした発言を公にする人が増えたのは、日本の変化の兆しだと見ているようだ。

 また、サブカルチャーでも「自衛隊が核の怪物と戦うような作品がポピュラーになってきている」と、アニメ・漫画化されているファンタジー小説『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』を例に挙げる。さらに、「出会い系サイトでは兵士(自衛隊員)とのデートが流行している」としており、軍隊(自衛隊)をタブー視してきた戦後日本の世論が、大衆レベルでも変化していると同紙は見ているようだ。

◆憲法改正の実現は疑問視
 とはいえ、このまま日本が憲法改正に突っ走るとは、ほとんどのメディア・識者は見ていない。NYTは、上記のような自衛隊への支持が高まっていることを示す事象が「必ずしもより攻撃的な安全保障政策に結びつくとは限らない」とし、富士総合火力演習の観客からも、目の前で誇示されている武力が実際に使われることがないように望む声が聞かれたと付け加えている。インデペンデントも、日本の大衆は核武装には「強く反対している」と書く。

 また、ウィルソン・センターの後藤志保子研究員は「日本の首相が望んでいることと、国民が望んでいることの間には間違いなく断絶がある」と発言。北のミサイルが日本に向けて飛んでくる今もなお、「軍事力の拡大には多くの大衆が反対している」とBBCに語っている。そして、ウォーレン元英駐日大使は、対北朝鮮、その先にある中国の脅威に対抗するための日本の選択肢は、実際には日米同盟の強化くらいしかないと指摘する。

 事実、日本が直接取った行動は、小野寺五典防衛相と河野太郎外相が訪米し、米側から日本防衛の意志を再確認するといったものだ。とはいえ、憲法上の“縛り”がある中で、安倍首相はアメリカの庇護を確実にする巧みな手腕を発揮しているとウォーレン氏は見る。「安倍首相は、トランプ大統領に対して日本を非常に巧みな位置に置いた。日本は大統領の経済政策上も、安全保障政策上も重要な存在になっている」同氏はまた、日本が攻撃されればアメリカが守りに来るかという質問に「そうなると思う」と答えている。

Text by 内村 浩介