世界的ブーム「ラブブ」を脅かす2つの影

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 中国発のキャラクター「ラブブ」が、世界中で人気を集めている。ぬいぐるみなどの関連グッズは飛ぶように売れ、特にアメリカでは過熱ともいえるブームが起きている。販売元の中国企業はビジネス拡大に自信をのぞかせているが、米中対立による影響などの懸念もあり、この人気が持続するかどうかは見通せない。

◆中国から世界へ レアものなら数千ドルも
 ラブブは、香港出身のデザイナーが考案した「ブサカワ(醜いけどかわいい)」キャラクター。2019年に中国の玩具メーカー、ポップマートとの提携によりフィギュア化された。当初は一部のニッチなファンに支持される存在だったが、芸能人やインフルエンサーによる紹介をきっかけに世界的なブームへと拡大した。

 アメリカでは、ラブブのフィギュアは1体あたり約30ドル(約4500円)で販売されているが、レアアイテムになると数千ドルで転売されることもあるという。ポップマートの2024年の総売上高は18億ドル(約2700億円)で、そのうち約4億2300万ドル(約620億円)がラブブ関連だった。

 中国はこれまで、たまごっちなど外国製玩具の生産国としての地位が長かったが、ラブブは国産初のグローバル・メガヒットの一つとされている。売上の約40%は海外からのものであり、ラブブの世界的人気を物語っている。

 金融大手HSBCは、2025年にはポップマートの海外売上高が国内を上回り、そのうちの3分の1をアメリカ市場が占めると予測している(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)。

◆若い大人がターゲット 政治に関心の低い層にアピール
 ラブブ人気の中心にいるのは、意外にも子供ではなく若い大人たちだ。アクセサリー感覚でデザイナーバッグに飾ったり、SNSで自慢したりするなど、「大人のかわいい」として支持を集めている。

 アメリカでは、「キッドルト(Kidult)」と呼ばれる、子供のような好奇心と大人の購買力をあわせ持つ層が、ファッションやトイ業界の新たなターゲットとなっている。マーケティング・プラットフォーム「オムニセンド」のブランド専門家によれば、ラブブのかわいいけど甘すぎない絶妙な奇抜さが、こうした消費者の心をつかんでいるという(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙)。

 また、ラブブが「中国発」と強く意識されなかった点も成功の一因だとされる。中国政府は長年、国際的なイメージ向上のため、文化やメディアを活用したソフトパワー戦略を展開してきたが、形式主義や国家色の強いアプローチが反感を買うことも少なくなかった。

 ラブブはそうした政治的な背景とは無縁で、純粋にキャラクターとして受け入れられた。とくに中国をよく知らない若い世代にとっては、単なるポップカルチャーの一部として自然に受け入れられたことが、人気拡大の大きな原動力となった。

◆トランプ関税と中国政府の介入を懸念
 ポップマートは現在、海外市場での拡大を急いでいる。しかしシーインやティックトックといった他の中国発ブランド同様、アメリカで政治的および規制上のリスクに直面している。

 WSJは、玩具メーカーという業種柄、米中対立の直接的な標的になるリスクは低いとみられるものの、トランプ関税による価格上昇は、いずれ商品の人気に悪影響を及ぼす可能性があると指摘する。

 さらに、一部の専門家は、今後中国政府がラブブを利用する可能性も否定できないと見る。ラブブの人気は、あくまで自然発生的な文化現象として生まれたものであり、もし政治的に利用されれば、これまで築いてきたイメージが損なわれるリスクもある。

Text by 山川 真智子