「レゴ授業」で子供の能力向上 イギリスの小学校で6週間の試み

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 小学校の教室で教師が主導して行ったレゴ®ブロックを用いた空間的トレーニングが、子供たちの空間的思考力および算数の学力を有意に向上させたという研究成果が、国際教育学術誌「Mind, Brain, and Education」にて発表された。

 この研究では、イングランド南部に位置する6つの公立小学校に在籍する6~7歳の児童409人を対象に、6週間にわたる教育的介入が実施された。従来のような実験室環境で研究者が指導する形式とは異なり、現場の担任教師が授業内で指導を担うという、より実践的かつ現実的なアプローチが採用された点が大きな特徴である。

 介入に先立ち、教師たちは空間的思考に関する基礎知識とその効果的な教え方について、専門家による研修を受けた。そのうえで、6週間にわたり、合計12回(週2回)、各30分間の授業内セッションが行われた。児童たちは、レゴブロックを使って図形を模倣したり、複雑な立体構造を再現したりする課題に取り組んだ。活動は遊びの要素を多く含んでおり、子供たちは楽しみながら自然に空間的なスキルを伸ばしていった。

 この教育介入の結果、特に「メンタルローテーション(頭の中で物体を回転・操作する能力)」と呼ばれる空間認識能力が顕著に向上した。また、算数の成績にも明らかな改善が見られ、とくに図形の理解や位置関係を問う問題で正答率が上昇した。これは、空間的思考が数学的能力の発達において重要な役割を果たしていることを、実際の教室環境において明確に実証した成果と言える。

 さらに注目すべきは、このトレーニングが研究者による外部からの介入ではなく、教師自身による日常授業の一環として実施されたという点である。特別な設備や外部専門家を必要とせず、既存の授業時間内で再現できる実用的な教育手法としての有効性が示された。

 研究を主導したエミリー・ファラン教授(サリー大学)は、「この研究は、数学教育における空間的推論の重要性を明らかにするものです。カリキュラムに空間的活動を取り入れることで、テクノロジーやAIによって高まる批判的思考・問題解決・データ活用の要求に応える次世代を育てるための力を養うことができるでしょう」と述べている。

 また、共同研究者であるカミラ・ギルモア教授(ラフバラー大学)は、「今回の結果は、シンプルで実践的な空間活動が学習に大きな影響を与える可能性を持ち、子供たちの数学的達成と楽しさの向上において重要な手段となり得ることを示唆しています」とコメントしている。

 研究チームは、こうしたトレーニングが今後さらに多様な学習文脈に取り入れられる可能性についても言及しており、学力支援やカリキュラム設計への応用に向けたさらなる検証が期待される。

 今回の研究は、学力向上に向けた取り組みの中で、遊びを通じた空間的経験がいかに効果的かを明らかにしたものであり、初等教育における指導法や教育政策に対しても、新たな指針を提示する重要な知見といえる。

Text by 白石千尋