世界にトビタテ! 留学先のカンボジアで見つけた「志」の原点とは?

ダボス会議グローバルシェイパーズの国際会議

 前編後編にわたり国家プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」の取り組みを紹介してきたが、実際に世界に飛び立った学生はどのような経験をしているのだろうか。今回は、「1か月半で世界の若手グローバルリーダーとのネットワークを構築すること」をテーマに留学をした、喜多恒介さんの体験を取材した。

 喜多さんは、東京大学を卒業後、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科在学中で、大学院ではソーシャルキャピタルおよびキャリア開発を研究している。研究の傍らで、教育・人財の分野で、株式会社、社団法人、NPOなどを運営している。

◆ダボス会議での世界の若手グローバルリーダーたちとの出会い
 留学前は経営をする会社で日本を対象に活動をしていたが、海外展開を考え始め、それが留学のきっかけとなった。とりわけ、キャリア教育のニーズがありそうな東南アジアに着目し、東南アジア各国における若手グローバルリーダーが育った教育環境の調査を行うとともに、彼らと協力した教育活動ができないかと考えた。

 具体的な留学の内容としては、東南アジア10か国を周り、各国の現地社会起業家、日本人起業家、日系企業社員などと面会し、最後にはダボス会議グローバルシェイパーズの国際会議「Shape Asia」に参加した。合計で、世界中のリーダー層100名と交流を行ったという。

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ダボス会議グローバルシェイパーズに参加する喜多さん

◆カンボジアで知った、衝撃的な世界の姿
 喜多さんが訪問先の一つのカンボジアで知った事実は、日本では絶対にあり得ないことが世界では起きていることを目の当たりにした体験だった。カンボジアで起業し医療事業を展開している若者に、「なぜやっているのか」をインタビューしたところ、思いもよらない衝撃的な答えが返ってきた。

 「この国には、ほとんど医者がいない。数十年前の大虐殺で、知識人は皆殺しにされてしまった。そもそも、医師資格も最近できたばかりで、それも賄賂で買えてしまう。この国で医療を根付かせようと思っても、今からでは無理だ。それならば、自分は、そもそも医師が必要の無い世界をつくる。ITを駆使し、予防医療を発達させて、それを実現したい」という答えだった。

 「医者がいない、そんな世界があるのか」。医療制度が確立している日本では、絶対にあり得ないことが起こっており、その原因が知識階級の大量虐殺ということも衝撃的であった。

◆留学を経て見つけた「志」の原点と危機意識
 カンボジアでの体験を通じて、喜多さんは「志」というものの原点を見つけたという。社会の欠落が、若者の心を突き動かし、社会を変えるうねりとなっている姿を見たからだ。

 こうしたうねりは、悠々と生徒が机に座っている日本の授業では起こらないだろう。実際に、日本の大学生のやる気の無さ、志の無さを日本での活動で感じており、このままでは気力溢れるアジア諸国の若者に追い越されてしまうのではないか、と危機意識を感じたという。

◆留学を経て、どう世界とつながっていくか
 こうした課題意識に対し、喜多さんはこれまで日本が築き上げてきた技術力、平和、豊かさ、信頼、社会的資本を新しい国に展開し、その過程を通じて、日本の若者が学校では得られない気づきや学びを獲得できるような循環のサイクルが実現できないだろうかと考えた。

 そこで、ミャンマーの大学生に向けて、キャリア教育などのリーダーシッププログラムを提供する団体を発足させた。日本の大学生がミャンマーの学生と共に創り上げることで、双方に大きな成長がもたらされることを期待している。

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ミャンマーのヤングリーダーたちとの交流

 また、「これからは、片足を日本に置きつつも、世界各国を飛び回り、日本の若者と関わる課題を見つけ、同世代の若者を世界に送り出していく役目をしたい」と語り、自身が世界と繋がり、多くの問題を解決していくために、各大陸で開催されるダボス会議グローバルシェイパーズの国際会議全てに参加することを決めたという。

 たった1ヶ月半の留学でも、価値観を変えるような体験をすることもある。トビタテ!留学JAPANのような自由度の高い留学支援インフラが支えとなり、日本から世界に飛び立つ若者が一層増えていくことを期待したい。

Text by NewSphere 編集部