英国「EUに戻りたい。でも…」 “失った特権”に葛藤

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 最近行われた世論調査で、イギリス国民の多くがEU再加盟を支持していることが明らかになった。欧州主要国でも「イギリスは再加盟を許可されるべきだ」との声が過半数を占めており、再びイギリスが欧州連合(EU)の一員となる可能性に注目が集まっている。世界情勢の変化により、イギリスと欧州の結びつきが強まるなか、再加盟への機運が高まりつつあるが、実現にはなお多くの課題が残ると見られている。

◆再加盟支持の声、欧州でも広がる
 イギリスは2016年6月の国民投票でEU離脱を決定し、2020年1月31日に正式に離脱した。しかし、その後の世論調査では「離脱を後悔している」と答えるイギリス国民が増加している。

 最近ユーガブ社が実施した調査によれば、イギリス人の55%がEU再加盟を支持すると回答。さらに、イギリスの再加盟を「認めるべき」と答えた割合は、イタリアで51%、フランスで53%、スペインで60%、ドイツで63%、デンマークに至っては72%と、いずれも過半数を上回っている。

◆特権なしの再加盟には慎重姿勢 復帰のハードル高く
 しかし、かつてイギリスがEUに加盟していた際に享受していた特別な条件(「ユーロを導入しない」「シェンゲン協定に参加しない(出入国審査がある)」など)で再加盟を認めるべきか、という問いになると、欧州各国の反応は大きく変わる。

 この条件つきで再加盟を支持した人の割合は、イタリアとフランスで19%、スペインで21%、ドイツで22%、そしてデンマークで43%にとどまり、大幅に減少した。

 一方、イギリス国内でも同様の傾向が見られる。イギリス人を対象にした別のユーガブ調査では、再加盟に賛成する人は54%と過半数を超えていたものの、「特例措置なし」という条件が加わると、支持率は36%にまで低下。この場合、反対は45%となり、賛成を上回った。

◆政権はEUに歩み寄り 右派からは反発の声も
 実はイギリスとEUは今年5月、離脱後の関係を見直す形で、防衛・移民・就労・旅行に関する包括的な新たな合意に達した。この合意により、長らく続いてきた両者の緊張関係が緩和されることが期待されている。

 しかし、CNNによれば、この合意は「イギリスの主権を損なうものだ」として、ポピュリスト右派の政治家たちからは強い批判を受けているという。こうした世論の反応や右派の反発を考慮すると、現在の労働党政権がEU再加盟を正式に目指す可能性は、現時点では極めて低いと見られる。

 一方、EU復帰に関する国民の意見もさまざまだ。英インデペンデント紙には、多くの読者から声が寄せられ、「過去と同じ条件での復帰は現実的ではなく、もはや妄想に近い」という声が相次いだ。かつて享受していた極めて有利な条件を、自ら手放したという点で、国民の間にはおおむね共通した認識があるようだ。

 また、離脱によって経済の低迷、国際的な影響力の減退、そして官僚主義の拡大といった負の影響があったとする指摘も多い。その一方で、関係の修復と再加盟を望む声の中には、条件としてシェンゲン協定への参加やユーロ通貨の導入さえも容認すべきだとする、思い切った意見も見られた。

Text by 山川 真智子