ニューヨークの小学生も“抹茶”に夢中 映えからライフスタイルの象徴にまで

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 抹茶ブームが世界を席巻している。アメリカでは抹茶専門カフェが企業価値5億ドルにまで成長し、コーヒーを上回る売上を記録しているという。一部では供給不足も起きており、日本政府が生産補助金の導入を検討するまでの事態となっている。

◆コーヒーより抹茶が売れる時代
 ニューヨークで急成長しているのは、新興カフェチェーン「ブランクストリート・コーヒー」である。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、同社は2020年にブルックリンでコーヒースタンドとして創業し、現在では企業価値が5億ドル(約740億円)に達している。売上の約半分を抹茶が占めており、共同創業者のビナイ・メンダ氏は、「抹茶はミクソロジー(複数の材料をミックスして楽しむドリンク)に最適だ」と語っている。

 同紙によると、抹茶はいまや単なる飲み物にとどまらず、味わいやSNS映え、さらにはライフスタイルの象徴として若者たちの支持を集めているという。特にZ世代を中心に人気が高まるなか、その波はさらに低年齢層にも広がっている。ブルーベリー抹茶ラテを飲んだニューヨークの小学6年生、エマ・グリーンフィールドさんは、「抹茶そのものはあまり好きじゃないけど、下にある甘いシロップは大好き」と語っており、「映えるドリンク」として抹茶を楽しむ傾向がプレティーン層にも浸透しつつある様子がうかがえる。ドリンクごとに個性や物語性をもたせるブランド戦略が、抹茶をカルチャーとして消費する流れを後押ししている。

 抹茶ブームはアメリカにとどまらない。英インデペンデント紙(WSJ)によると、ロンドンでも同様の傾向が見られるという。ケンティッシュタウンのフィリピン系ベーカリー「カフェ・ママ&サンズ」のCEO、オマール・シャー氏は、「今ではコーヒーよりも抹茶の方が売れている」と話し、抹茶の人気ぶりを強調している。

◆10年で需要2倍、世界的な供給不足
 抹茶の需要が急速に拡大するなか、深刻な供給不足が生じている。米シアトル・タイムズ紙によれば、2024年に日本から輸出された緑茶の総量9698トンのうち、半分以上が抹茶で占められていたという。これは10年前の約2倍にあたる。

 インデペンデント紙も、イギリス国内での抹茶需要が200%増加したと報じている。日本では昨年秋、これまでにない規模の需要により抹茶不足が発生。国内の茶会社が抹茶缶の買い付けに制限を設ける事態となった。また、日本政府は抹茶の原料となる茶葉の生産を促進する補助金制度の導入を検討しているとされる。

 シアトル・タイムズ紙は、現地のコーヒーショップが供給難に苦しんでいる現状も伝えている。キャピトルヒルのカフェ「フェー」では、品質に妥協せず、代替業者からのオファーをすべて断ってきた。その結果、現在も抹茶の在庫切れが続いているという。

 同店のパートナーであるビー・レ氏は、同紙の取材に対し、「客の多くが動揺しています。抹茶を楽しみに来たのに在庫がない。悪いレビューもたくさん受けました。でも、それも仕方のないことなんです」と語っている。

◆「誰もが抹茶の虜」
 ブランクストリート・コーヒーにおける抹茶ブームのきっかけとなったのは、意外なドリンクだった。共同創業者イッサム・フレイハ氏は、WSJの取材に対し、2年前にロンドンチームのメンバーが開発したブルーベリー抹茶ドリンクがネット上で大きな話題となったことが転機だったと語っている。以降、同社は季節ごとに新商品を投入し続けている。

 シアトル近郊ベルビューに拠点を置く「マッチャ・マジック」のマネージャー、アケリア・ジョンソン氏は、シアトル・タイムズ紙に対し、「人種や年齢に関係なく、誰もが抹茶を愛しています。抹茶の虜になる人もいれば、そこまでではなくとも一度は試してみたいという人がほとんどです」と語っている。

 抹茶はもはや単なる飲み物ではなく、ライフスタイルの一部となった。伝統的な日本文化が、ソーシャルメディア時代の若者文化と融合し、いまや巨大なビジネスへと成長している。供給不足という課題を抱えながらも、抹茶ブームはさらに勢いを増している。

Text by 青葉やまと