中国「南方週末」記事差し替え問題 裏で繰り広げられたもう一つの戦いとは

中国「南方週末」記事差し替え問題 裏で繰り広げられたもう一つの戦いとは 9日、中国当局の指示による「南方週末」改ざん問題の余波が、首都北京にまで広がったことが明らかになった。北京の有力紙「新京報」の内部情報によれば、火曜の晩から水曜夜半にかけて同社内では、党宣伝部と幹部編集者との息詰まる攻防が繰り広げられたという。

 新京報の記者がウォール・ストリート・ジャーナル紙に明かしたところによれば、共産党の宣伝部当局者が同社を訪れたのは、8日の午後8時頃だったという。そこで、英語版共産党機関紙「環球時報」の、南方週末記者を批判する社説の転載を要求。しかし新京報の編集長は、「無味乾燥で非論理的」で、「同紙のスタイルに合わない」記事の転載を、職をかけて突っぱねたという。じりじりと時間が流れ、夜半、社説抜きの朝刊の輪転機が回り始める。社内には、不当な圧力に抗いぬいた誇らしさと、あと数時間粘れば、すべてが終わるという楽観的ムードが広がった。しかし、当局者には、一歩も退く気はなかった。記者たちは、新聞発行そのものが危ぶまれる気配が漂うに至り「悔し涙を流し、歯を食いしばって」膝を屈し、20面に社説を載せる異例の措置を取ったという。なお、その後の、編集長らの処遇については不明。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が当局に問い合わせたところ、「そのような事実はなかった」という返事しか得られなかったという。

 この顛末は、当局の差し止め前の間隙をつき、インターネットで素早く広まった。識者は、これはもはや一新聞社の問題ではなく、「政府は国民に答えを出さなければ」ならず、「習氏や党宣伝部の対応が問われている」と語る。習党総書記にとっては、就任時からあげられていた汚職や領土などの諸問題を抜き去り、喫緊の困難な課題が突きつけられている格好だ。

 フィナンシャル・タイムズ紙によれば、昨年末に70名の学者が、党指導部に対し、「体制改革が進まなければ人民の不満は極限に達し、暴力的な革命が起きる危険がある」という内容の、政治改革要求提案書を提出した。はからずも今回、南方週末社前に集った市民が「天安門以来」と評した、人々の「自由のための」活動は、これを裏付けるかに見える。

 一方、広東省では、南方週末の記者がストを解除する代わりに、騒動の原因を作った広東省宣伝部長、庹震(たく・しん)氏が辞任し、抗議を示して辞職した記者たちにもおとがめなしの復職が保障されたと伝えられる。ただ、南方週末社の前では、自由を求めて声を上げる活動家と、毛沢東氏の肖像画を掲げた共産党支持者が彼らを「裏切り者」と罵倒している光景が見られる。中国指導部は、国内から膨らむ改革への希求を破裂させることなく、包みこむことができるのか。矛盾にきしむ大国の明日への高い注目をうかがわせる報道となった。

Text by NewSphere 編集部