もっと愛されたい? 科学が示す意外な“幸せの入口”
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多くの人は心のどこかで「もっと愛されたい」「もっと大切にされたい」と願っている。しかし実際には、ただ待っているだけではその「愛されている感覚」はなかなか育まれない。ペンシルベニア州立大学の研究チームが行った最新の調査によれば、実は「愛されている」と感じるためには、まず自分から積極的に「愛を表現する」ことが重要だという。28日間にわたり日常生活のリアルタイムデータを集めたこの研究は、愛の表現と愛され感覚の意外な関係性を鮮明に浮かび上がらせている。
◆28日間にわたるスマホでの感情&行動記録
研究の対象は52人の成人。平均年齢は約33歳で、67%が女性、80%が白人という構成だ。参加者は28日間、スマートフォンに1日6回届く質問に答え続けた。質問内容は、「今どのくらい自分が愛されていると感じているか」「この質問が来るまでの間にどれくらい愛を表現したか」を、それぞれ0から100のスケールで評価するものだった。
このエコロジカル・モーメンタリー・アセスメント(EMA)という方法により、合計で1万1000件以上もの詳細な回答データが集められた。研究チームは時系列解析を用いて、「愛の表現」と「愛されている感覚」の関係を時間軸に沿って丁寧に検証した。
◆「愛を伝える」ことが、時間をかけて自分の心を満たす
解析の結果、誰かに愛を表現した直後から数時間にかけて、「自分は愛されている」という感覚が確実に増していく傾向が確認された。たとえば、親切な行動や感謝の言葉を伝えた参加者は、その後数時間のうちに、より強く「愛されている」と感じていたのだ。
一方で、逆の関係――つまり「自分が愛されていると感じた結果として、後から愛を表現する行動が増える」という因果関係は見られなかった。このことは、愛されている感覚が高まること自体が、必ずしも愛の表現行動のきっかけにはならないことを示している。
さらに興味深いのは、「愛されている感覚」が最大で約8時間も持続するのに対し、「愛の表現」という行動は1〜2時間程度で変動しやすいという点だ。感情はじわじわと長く心に残り続ける一方で、行動は瞬間的に発生してすぐ消えてしまう性質があることが明らかになった。
◆愛され感覚が続く人は、より幸福を感じやすい
さらに調査を進めると、日々の生活のなかで「愛されている感覚」を安定的に保てる人は、調査後に報告された主観的幸福度や人生の満足度が全体的に高いことも分かった。つまり、愛されているという感情が長く続くことは、精神的な健康状態の良さと深く関連していると考えられる。
◆幸福のカギは、まず自分から「愛を伝える」ことにある
研究チームは今回の結果を踏まえ、「愛されたい」とただ願うだけでなく、自分から積極的に愛を伝え表現することこそが、自分の幸福感を育む重要な一歩であると強調している。
日常のささいな「ありがとう」や親切な行動、そして温かい言葉の数々が、実は自分の心を満たし、周囲とのポジティブな感情の連鎖を生み出しているのだ。この現象は「ポジティビティ共鳴」理論として知られ、感情のやり取りが相互に響き合うことで人間関係が強化される仕組みと合致している。
つまり、幸福感とは誰かから受け取るものではなく、自分から動き出すことで初めて巡ってくるものなのかもしれない。愛を受け取る喜びを感じるために、まずは自分から愛を表現してみること。そんなシンプルながらも科学的に裏付けられたメッセージを、この研究は私たちに届けている。




