ミック・ジャガー効果? 英国で「高齢パパ」が異例の増加

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 イギリスで、2024年に60歳以上の父親から生まれた新生児の数が大きく増加していたことがわかった。近年は、60代や70代で父親になる著名人も相次いでおり、こうしたケースが「高齢の父親」への社会的な受容を後押ししている可能性がある。

◆60歳以上の父親から生まれた新生児、前年比14%増
 国家統計局(ONS)によると、イングランドとウェールズで昨年生まれた新生児は59万4677人。このうち父親が60歳以上だったのは1076人で、前年比で14.2%の増加となった。

 英デイリー・メール紙は、新生児の親の平均年齢がこの50年で着実に上昇してきたことの延長線にあると指摘。出生数全体が2021年以来初めて増加に転じたなかで、高齢の父親による出生がその一因になったと、やや誇張気味に報じている。

◆ミック・ジャガー、デ・ニーロ…高齢著名人に続々と子供誕生
 実際に、60代、70代、さらには80代で父親になる有名人が増えている。

 歌手のロッド・スチュワートは66歳で末っ子が誕生。ローリング・ストーンズのミック・ジャガーは2016年、73歳で8人目の子供を授かった。すでに6人の子供がいた俳優のロバート・デ・ニーロは2023年、79歳で娘の父親に。さらには、俳優のアル・パチーノに至っては80代で新たな子供が生まれている。

 BBCによると、オックスフォード大学で男性の健康を研究するビンセント・ストラウブ氏は、こうした著名人の影響で「高齢の父親」が社会に受け入れられやすくなっており、それが出生統計にも反映されていると分析。子を持つ高齢の有名人に関するメディア報道も増えており、「Geriatric Dads(高齢のパパ)」という新語も登場しているという。

 英テレグラフ紙は、高齢の父親の増加を「ミック・ジャガー効果」などと呼んでいるが、ONSの統計によれば、実際に多いのは60代前半の父親だ。オックスフォード大学の人口統計学者クリスティアン・モンドン氏は、ミック・ジャガーやアル・パチーノのような年齢で父親になるケースは、実際にはごくまれだと指摘している。

◆「救世主」ではない? 若年層の出生数はむしろ減少
 英マンチェスター大学のアラン・ペイシー教授によれば、40歳を超えた男性は25歳の男性と比べて「生殖能力がおよそ半分」になるという研究結果があり、高齢の父親の増加は興味深い現象だという(BBC)。

 上述のモンドン氏は、寿命の延伸や社会的規範の変化が背景にあると指摘。再婚や結婚以外の選択肢も受け入れられ、女性がより高い年齢で子供を産むことが増加。パートナー間の年齢差もやや拡大しており、これにより、高齢の父親を持つ新生児増加の可能性が高まったとしている。(テレグラフ紙)

 一方で、ストラウブ氏は、高齢の父親から生まれた子供には健康リスクが伴う可能性があると警鐘を鳴らす。父親の年齢が高いと、自閉症などのリスクが高まるとする研究もあり、年齢が上がるほど受胎の可能性は低くなり、子供への健康リスクも懸念されるという。(同)

 昨年、高齢の父親が増加した一方で、30歳未満の親から生まれた新生児の数は減少した。生活費の高騰が、子供を持つことへの大きな障壁となっており、若い世代の出生率の低下は、厳しい経済状況を反映しているとみられる。

Text by 山川 真智子