海外でじわり浸透中の日本酒 自前で醸造所、酒イベント開くコアな愛好家も

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 日本酒を愛する人々が海外で増えつつある。世界的な日本食ブームが味方するほか、独特の味わいに心酔する人々が草の根で広めているようだ。アメリカ、オセアニア、ヨーロッパにも醸造所がオープンし、アジアでも多く消費されている。国内の売り上げ減少とは対照的に、海外で愛好家を増やしている格好だ。

◆国内と好対照 海外への輸出が好調
 ガーディアン紙は80年代に3500あった醸造所が今では1300となるなど、日本での消費縮小を伝える。戦後にブームとなったが、その世代も高齢化し、消費が弱まりつつあることが原因と見る。一方、海外市場への輸出は過去10年で倍増するなど好調だ。海外から見ると、日本酒が勢いを増す中で、本国日本で不調というのは不思議に思えるのかもしれない。

 フィナンシャル・タイムズ紙は、内需は縮小しているものの、高級路線の商品の品質には一段と磨きがかかっていると分析する。一例として新澤醸造店の『残響スーパー7』を挙げ、「(どういうわけか)計350時間もかけて精米し、7%しか残らないコメから作られる」(2016年10月7日)と、プレミアムぶりを紹介する。国内の希望小売価格は3万円強だが、イギリスのショッピングモールでは995ポンド(約14.5万円)の特別商品として出品された。海外では和食は高級料理と認識されることもあり、うまくその波を捉えたことで販路を広げているようだ。

◆世界の愛好家が知名度向上に貢献
 華々しい販売実績の陰で日本酒の普及を支えているのが、海外の愛好家らによる活動だ。イギリスの著名テクノミュージシャンであるリッチー・ホゥティン氏は、大の日本酒ファンとしても知られる。フィナンシャル・タイムズ紙によると、クラブ音楽と酒を融合した『ENTER.Sake』イベントを各地で主催するなど、世界の若者への普及活動を行なっている。輸出も手掛けており、ワインの本場、ブルゴーニュに配送拠点を設けるほどの力の入れようだ。

 さらにはニュージーランドのニュースサイト『stuff』が伝えるところでは、日本酒好きが高じて独自の醸造所を構えてしまった人もいるようだ。ニュージーランドのデイブ・ジョル氏は、日本で飲んだ酒の味に感銘を受け、観光会社を経営する傍ら日本酒の製造を決意した。開設2年という若い酒造所でありながら、すでにニュージーランドのコンペで優勝するほどの成長ぶりだ。日本の酒造メーカーが独占してしまう高グレードのコメをいつかは入手したい、との野望を抱く。世界的な日本酒人気の影には、こうした愛好家たちの努力があるようだ。

◆ワインとは違う個性 EUでの消費拡大に期待
 海外で受け入れられている日本酒だが、課題もある。ガーディアン紙は、現状海外では主に日本料理店でのみ提供されていると明かす。『stuff』でも醸造所を立ち上げたジョル氏の意見として、広く浸透しているワインとは評価項目も製法も全てが異なるとし、普及に頭を悩ませる。欧米のアルコール類とは全く違うことが魅力だが、それだけに伝わりづらさもあるのだろう。

 一方で、好材料もある。アメリカの地方紙オレゴニアンは、ここ10年ほどで日本酒が和食店を飛び出し、高級レストランやバーで売られ始めているとしている。より多くのシーンで楽しまれている兆候はあるようだ。また、EUとの経済連携協定も追い風になるだろう。日本酒の関税が撤廃されればヨーロッパでの消費拡大も視野に入る。日本でも世界のワインが愛飲されているように、海外でもより手軽に日本文化に触れてもらう好機となりそうだ。

Text by 青葉やまと