世界的に見直されるレコードの魅力 ソニーの生産再開の背景とは?
音楽のストリーミングやデジタルダウンロードが人気を集める中、ソニーミュージックエンタテインメントが古き良きレコード生産を国内で再開すると発表した。海外のメディアもこのニュースを扱い、ソニーの動向に注目している。
◆世界的なレコードブームが追い風に
決断の背景にあるのはレコードブームだ。実はレコード人気は海外でも高まりつつあり、フォーブス誌によると、レコードの販売数は世界全体で昨年2016年までの過去10年間で1225%増という驚異的な伸び率を見せている。売り上げも予想外に大きく、CNNは「(全世界で)2017年に物理的に販売される音楽のうち、最大で18%の売り上げをレコードが占める可能性がある」(6月30日付記事)というコンサル企業の予測を報じるなど、勢いはとどまる所を知らない。
日本でも4年ほど前からレコードブームが到来しているが、レコード工場は国内で1社しかなく、需要に供給が追いついていないと英ガーディアン紙は指摘する。ソニー側としても、ますます拡大が見込まれる商機に備えたいという意図のもと、今回の決断に至ったと思われる。
◆海外メディアはソニーの動きを評価 一方で冷静な見方も
ガーディアン紙は、ソニーの動きが世界の音楽市場に大きく影響すると予測する。音楽業界のアナリストであるマーク・マリガン氏の意見として、今後もレコード市場は拡大するとの見方を掲載している。世界的にもレコードのプレス工場が不足していることから、同様に音楽レーベルが自社工場を設ける事例が出ても不思議はないとの立場だ。寡占する工場側が高いマージンを課す可能性もあり、自社工場の確保は合理性のある動きだと評価する。
ただし、一方では冷静な見方もある。同記事ではセールスマネージャーを務めるアヌーク・レインダース氏の意見として、プレスは高度な技術と職人が必要とされることから、生産を再開したとしても小規模な生産に留まるのではないかとしている。
アメリカの大手テックメディア『マッシャブル』も、Pandora、YouTube、Spotifyなどの無料のストリーミングサービスを挙げ、高い対価を支払ってレコードを購買するのは一部の熱心なファン層に留まるのではないかという見解だ。
◆世界同時開催の「レコードストアデー」がファン層を広げる
それでもなお、レコードの魅力は各メディアが認めるところだ。ワシントンポスト紙は、iPodを聴きながらジョギングするのとは違う良さがあるとして、あくまでデジタルとは別のスタイルであることを強調する。アメリカでは16社だけが製造しており、需要に追いついていない。レコードのリリース日が来ても店頭に商品が並ばないことすらあるようだ。ヨーロッパでも供給不足は同じで、ガーディアン紙によると製造はチェコとオランダの2社にほぼ限られている。
嬉しい悲鳴を上げる世界のレコード業界だが、ブームのきっかけの一つは「レコードストアデー」だ。毎年4月に世界同時開催されるこのイベントには、限定版レコードを求めてファンが押しかける。フォーブス誌によると、イベントではアルコールやライブ演奏も提供され、参加店舗が占めるレコードの全売上高に対する割合が40%から74%に増加するなど大盛況を博しているという。
『news.com.au』もイベント前日に記事を発表している。オーストラリアだけでも40店舗が同時参加するこのイベントでは、世界限定5000枚のレア盤などがファンを引きつけているようだ。また、祖父や父の世代が親しんだ文化の良さを子供世代が再発見するなど、若い世代のファンも生み出しているようだ。
ソニーのレコード生産再開は、このような世界的ブームを捉えての判断だったようだ。雑音や音飛びなども含め、レコードのアナログな良さが世界で見直されている。