大学を中退しても成功者になれる?
著:Jonathan Wai(デューク大学 Research Scientist)、Heiner Rindermann(ケムニッツ工科大学 Professor of Educational and Developmental Psychology)
Facebookの創業者マーク・ザッカーバーグが、ハーバード大学から今年度のコメンスメント・アドレス(訓示)を依頼された時に、ビル・ゲイツにアドバイスを求めた。
「大学側は僕が中退したって知っているでしょう?」と悩むザッカーバーグに、ゲイツは次のように答えている。
「だから素晴らしいことなんだよ!名誉学位をもらえるんだから!」
ハーバード大学を中退した2人の成功者がこのようなやり取りをしたと聞けば、大学での学習に大した重要性はないと思う人もいるかもしれない。大学を中退した彼らの逸話はメディアで華々しく取り上げられ、著名な億万長者らからも大きな賞賛を浴びた。あるいは子どもたちに大学へ行く必要などないと訴える意見もある。
大学を中退しても大きな成功を収めた人がいる。それは事実だが、統計的に見れば稀なケースである。我々は教育と才能の関係性を研究する中で、国内の成功者の圧倒的多数が大学を卒業していることを発見した。シェリル・サンドバーグ(ハーバード大卒)、ジェフ・ベゾス(プリンストン大学卒)、そしてマリッサ・メイヤー(スタンフォード大卒)を始めとする数々の成功者が大学を卒業している。
◆大学中退者が成功するというのは神話にすぎない?
我々が最近行った研究では、大きな財力と影響力を持つ人々のうち何人が大学を卒業しているのかを調査した。企業のCEO、連邦裁判所判事、政治家、数千万~数十億単位の高所得者、財界の指導者、そしてフォーブス誌の「世界で最も影響力のある人物」にランクインした男女を対象とし、アメリカの有力者11,745人を調査した。
我々はまた「一流大学」の卒業者数も調べた。(ここではアイビーリーグに属する私立大学8校に加え、USニュースの大学ランキングにおいて学部教育と大学院教育の両方で継続的に高い評価を得ている難関国立大学及びリベラル・アーツ・カレッジを一流大学と定義する。)
調査の結果、アメリカの有力者の約94% が大学に進学しており、約50% が一流大学への入学を果たしていることがわかった。肩書に関わらず調査対象者のほぼ全員が大学に進学していたが、進学先が一流大学かどうかについては結果に大きなばらつきが見られた。例えば下院議員で一流大学に進学していたのは20.6%、3,000万ドル以上の高所得者では33.8%しかいなかったのに対し、フォーブス誌の最も影響力のある人物に選ばれた男女の80% 以上が一流大学の出身だった。様々な理由があるだろうが、下院議員と上院議員を比べると、上院議員の一流大学出身率は41% で下院議員の約2倍となった。
一般的な進学状況と比較するため、国勢調査と各大学が発表しているデータをもとに計算したところ、アメリカの大学生うち一流大学に通っているのは全体の約2~5% 程度と思われる。すると我々の調査対象とした有力者の一流大学出身率は非常に高いことがわかる。
◆一流大学であることが重要?
今年は一流大学に対する出願数が増加し、受験倍率が上がっているようだ。大学進学適性試験 (SAT) の得点が同程度である場合、高倍率の大学出身者と低倍率の大学出身者の大人になってからの所得に差はないという研究結果がある。大学に進学し、卒業していれば、その大学がどこであろうと長期的な収入に関しては決定的な差を生む要因とはならないようである。
しかし我々が集めたデータによると、アメリカ社会のトップに立てるだけの才能とやる気がある学生にとっては、目標を達成する上で一流大学の出身であるという肩書が利点となるようだ。一流大学に在籍していればそこで得られる人脈もあるだろう。またブランド力のある大学を出ていれば、履歴書にも箔がつく。
我々は11,000人を超える成功者を調査したが、その中に極端に貧乏な家庭の出身であるなど、極めて不利な環境から上り詰めたという人はほとんど見当たらなかった。才能があるにも関わらず不利な環境に置かれている学生が、一流大学にも進学できるよう援助すれば、将来的に様々な人がリーダーとして活躍できるだろう。
◆大学教育の重要性
誰もが社会のトップに立てるだけの教育を受けることはできない。これは認めざるを得ない事実である。そのため、大学へ進学することだけが誰にとっても正しいとは言えない。またそれが最良の選択ではない場合もあるだろう。しかし大学へ進学したくない、または中退しようかと思っている学生がいるならば、ゲイツやザッカーバーグも大学に入学はしているということを覚えておいてほしい。彼らのような偉大な成功者など目指していなくても、大学に入学し、卒業するための今日の努力により、いつか大きな可能性が開けるかもしれない。
おそらく将来的には、どの企業も社員の採用基準として出身大学を今ほど重要視することはなくなるだろう。しかし今のところは、大学を中退した人が世界を股にかけ活躍するというのは稀なケースであり、規範とするのはまだ早い。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by t.sato via Conyac
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