メルケル首相の「もう他国に頼らない」の真意は? 割れる今後の米EU関係予想
欧州を訪問したトランプ米大統領は、ドイツや北大西洋条約機構(NATO)を批判し、主要7ヶ国首脳会議(G7サミット)でも各国との間で意見の隔たりを残し帰国した。28日ミュンヘンの選挙イベントで演説したドイツのメルケル首相は、「他国を信頼できる時代は終わりだ」とし、欧州はその運命に関し自ら行動して解決しなければならないと述べた。多くのメディアはこれがアメリカを指した発言だとし、ついに欧州がアメリカと決別かと報じたが、必ずしもそれがメルケル氏の真意ではないとする見方もある。
◆トランプ大統領の態度が引き金?アメリカを驚かせたメルケル発言
ワシントン・ポスト紙(WP)は、戦後アメリカと欧州の関係がギクシャクすることはあったが、欧州のリーダーがここまで強い気持ちを表すのは非常にまれだとし、いつもは非常に用心深いメルケル首相がこのようなはっきりとした宣言をすることは珍しい、と報じている。米超党派組織、外交問題評議会のリチャード・ハース会長は、メルケル首相のコメントは「分水嶺」で、このシナリオは第二次世界大戦以後、アメリカが避けてきたものだとツイートしている(ブルームバーグ)。
各メディアとも、メルケル氏がこの発言をするに至った理由として、トランプ大統領が欧州訪問中にドイツの貿易黒字を厳しく批判したこと、G7サミットで各国首脳が賛同する気候変動対策の新たな枠組み「パリ協定」の迅速な実施に賛成しなかったこと、NATOの参加国に対し必要な軍事費を負担していないとして叱責したことを上げている。
◆独仏接近、欧州の自立はアメリカへのダメージ
WPは、トランプ大統領が欧州との間に、第二次大戦以来最大の亀裂を作ってしまったというユーラシア・グループのクリフ・カプチャン会長の言葉を紹介する。そして、欧州各国はアメリカ抜きでの軍事的協力を深めようと計画中で、経済面ではアジアとの協力を深めようとしており、欧州が離れていくことでグローバルパワーとしてのアメリカの立場が弱まり、長期的にはアメリカへのダメージになる、という専門家の見方を伝えている。
フランスでEUを支持するマクロン政権が誕生したことも、アメリカ抜きの欧州の結束を強めることにつながる。欧州のリーダーたちはアメリカが支配的な力を維持するNATO外での協調も望んでおり、独仏関係が強化されれば、欧州の防衛面での協力も加速するとWPは指摘する。また、トランプ大統領が反対するグローバル化をメルケル首相とマクロン大統領は協力して進めることを約束しており、こちらでもアメリカの影響力低下が懸念される。
◆決別はない。アメリカは欧州にとって必須
一方、政治誌「ポリティコ」は、メルケル首相が示したのはアメリカとの決別ではないと指摘。発言は正しくは、「他国を“完全に”信頼できる時代は“ある程度”終わりだ」だったとしている。発言のタイミングに関しても、G7サミットの後に突然出て来たように報じられているが、実はメルケル首相はトランプ政権誕生時からアメリカと微妙に距離を置くようになっており、欧州の統合を進めるというのも以前から目指していたことだと指摘する。さらに、ドイツがアメリカから軸足を移すと言うシグナルを出す場所として、ミュンヘンのビール・パーティ(注:選挙イベントが聴衆にビールを提供するものだった)を選ぶことは、メルケル首相ほどの用心深いリーダーならほぼないとも述べている。
ロイターは、メルケル首相の報道官の「大西洋間の関係は重要なため、メルケル首相は互いの違いについて誠実に語ったのだ」という発言を紹介し、首相が間接的に、トランプ大統領がアメリカを孤立させるリスクを犯していると警告するための発言だったとしている。
ポリティコは、ドイツにとって、良くも悪くもアメリカは貿易と安全保障において欠くことの出来ないパートナーだと述べ、たとえ誰がアメリカの大統領になろうとも、メルケル首相は欧州にアメリカが必要なことは理解しているとし、アメリカとの同盟に匙を投げた訳ではないと述べている。
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