世界に広がる中国の「孔子学院」はトロイの木馬? 米国で非難の声が上がる背景とは

 孔子学院は、中国政府が海外で展開する中国語・中国文化の教育機関だ。2004年からスタートしたが、すでに日本を含め世界各地に広がっている。表向きは中国のイメージアップを図る広報活動の一環だが、一方的な考えを押し付けるプロパガンダではないかという意見もある。中国が提唱する、アジア、欧州、アフリカを結ぶ21世紀のシルクロード、「一帯一路」の対象国でも次々と開設されており、中国の影響力は強まるばかりだ。

◆ソフトパワー戦略の一環。世界に続々開校
 孔子学院は、世界各国の大学などと提携し、キャンパス内に専用施設やクラスを設けており、教員の給料をはじめ、運営資金は実質的に中国政府が負担している。米外交問題評議会(CFR)によれば、学習計画作成にあたり最低でも年間10万ドル(約1100万円)が提供されており、中国語教育に資金を回す余裕のない大学などに広く受け入れられている。中国側からすれば、世界に親中派を育成する「ソフトパワー戦略」の中心という位置づけだ。

 フォーリン・ポリシー誌によれば、孔子学院は世界513ヶ所に開設されており、小中学校にも1074クラスを持つという。文化・言語を通した外交という意味で展開しているドイツ文化センターの159校、フランスのアリアンス・フランセーズの850ヶ所を上回る数だ。欧州ではパリやベルリンなど7都市に開設されており、日本でも早稲田大学、立命館大学を始め、十数校に設置されている。

◆学問の自由はどこへ。アメリカでは廃止も
 孔子学院は、資金、教員、教材まで提供し、教える内容に関しては、「Hanban(漢弁)」と呼ばれる中国政府の監督機関から認可を得ていなければならないという。世界の孔子学院の39%が集中しているアメリカでは、このやり方が学問の自由を阻害しているとし、ここ数年批判の声が高まっている。これを受けて、すでにシカゴ大学、ペンシルベニア州立大学は孔子学院を閉鎖した(フォーリン・ポリシー誌)。

 フォーリン・ポリシー誌に寄稿した全米学識者協会のディレクター、レイチェル・ピーターソン氏は、孔子学院では政治、歴史、経済を議論することは禁止されていると指摘する。講師たちは、台湾やチベットに関する話が出た場合は話題を別のものに変えるよう指導されており、できない場合は、両方とも議論の余地なく中国の領土と答えるよう指示されているという。また、天安門広場が話題に上った場合、「写真を見せて、美しい建築だと指摘する」のが、あらかじめ用意された対応だということだ。

 同氏は、孔子学院による授業が大学の単位として認められる場合も多く、中国政府の意思がアメリカの大学教育に反映されてしまうこと、資金提供を受けているが故に、大学側や教授陣が言いたいことを言えなくなることも問題だとしている。孔子学院は、アメリカの高等教育を破壊する「トロイの木馬」だと評する同氏は、学問の自由、言論の自由を守るためには、今こそより多くの大学が孔子学院を廃止すべきだと主張している。

◆「一帯一路」でも拡大。イメージアップ戦略としては問題も
 一方、「一帯一路」地域においては、孔子学院の存在感は増している。3月時点で「一帯一路」に含まれる53ヶ国では、137校の孔子学院と131の中国語クラスが開校しており、46万人が中国語を学んでいる(ディプロマット誌)。中国国営の新華社は、多様な文明における交流と相互理解が孔子学院の目的と伝えている。

 もっともCFRは、中国のソフトパワー・キャンペーンは、中国が示そうとするイメージと実際の行動の不一致により、効果は限られたものになると述べ、高まる愛国主義、領土問題での強引さ、メディア検閲、政治的弾圧などを問題視している。CFRのシニアフェロー、エリザベス・C・エコノミー氏は、中国が自らの欠点に対処しないのであれば、中国の価値観を売りつけることは困難だと指摘し、誠実さを示して初めて世界に受け入れられる可能性を持つと述べている。

Text by 山川 真智子