ロシア養子禁止法案は正しい選択か?
ロシアのプーチン大統領は、27日、米国人による養子縁組禁止法案に署名すると明言した。この法案は、2008年にアメリカ人に引き取られたものの車内に放置されて死亡したロシア人幼児の名前を取り「ジーマ・ヤコブレフ法案」と呼ばれている。ただし、この法案は、アメリカの上下両院で通過した「マグニツキー法」(ロシアの「人権問題」にアメリカが制裁を加えた法律)に対抗する措置と見られている。法案はすでに、ロシア下院では圧倒的多数、上院では全会一致で可決しており、後は大統領の署名を待つだけである。
海外各紙は、賛否両論を詳細に報じている。
法案に反対する側の意見として、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ロシア人孤児を政治的人質にすることに対して非難する声を掲載するとともに、医学的に非常に危険な状態にある孤児は、米国でなければ適切な処置を受けられないとする米国内の意見も紹介している。
またフィナンシャル・タイムズ紙は、27日、ロシア法務省が法案に反対する立場を取り、ロシアが批准している国連の「子どもの権利条約」に抵触すると発言したと報じている。さらに同紙は、統計的にロシアよりも米国の方が安全であるとする反対派の意見を紹介している。
ニューヨーク・タイムズ紙は、すでに養子縁組の過程にあるアメリカの夫婦について大きく紙面を割いている。多大な費用をかけてロシアまで何度も足を運びながら、法案が施行されることによって、次回面会を約束した子どもと永遠に会えなくなる可能性があるという状況を描いている。
一方、法案に賛成する側の意見として、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ロシア人職員がアメリカに住むロシア人養子に会う権限を米国から付与されていないとの指摘を取り上げている。フィナンシャル・タイムズ紙は、モスクワに本拠を置く世論調査財団の調査で56%の人々がこの法案に賛成しているという結果になったと報じている(ただし、この財団の主要な依頼主はロシア政府であるという)。さらに、同紙は、法案反対派の意見に対してプーチン大統領が、「(ロシアよりも住みよい場所があるというのなら)我々全員で移住することになるのか?」と反発していると報じている。また、ニューヨーク・タイムズ紙は、ロシア人は自分たちのことを自分たちですべきであるとの意見を紹介している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米国内の声として、養子を待つ子どもたちは米国内にもあふれているという意見、および、養子縁組が人身売買の様相を呈する場合があるという意見を取り上げている。
なおニューヨーク・タイムズ紙は、米国が同法案に対してどのように対処すべきか検討中であると報じている。同紙は、判断の背景として、(1) 米国は、アフガニスタンへの戦略物資補給について、ロシア国内を通る陸路に大きく依存していること、 (2)イランの核開発問題についてロシアの協力を求めていること (3) シリア内戦の処理についてロシアと歩調が合わないことが挙げられるとしている。