急速に進む中国のキャッシュレス化 モバイル決済は米国の50倍 その背景とは?
キャッシュレスとはクレジットカードでの支払いが想像しやすいが、銀行口座への振り込みや小切手による支払いも該当する。そして注目はiPhoneを使ったアップルペイに代表されるスマートフォンなどのモバイル機器による決済だろう。機能は「おサイフケータイ」に近く、スマホを読み取り装置にかざすだけで交通機関を利用できたり、iD(NTTドコモ)やQUICPay(JCB)などの電子マネーに対応している店ならば同じような動作で買い物や支払いができる。現金(キャッシュ)を持たなくて済むだけでなく、プリペイドカードやクレジットカードで財布を膨らませることもない。さらにこれらのサービスを利用することで、ポイントが貯まる仕組みが手厚く用意されている。
便利な機能だけに普及が確実視できるが、お隣の中国では西側諸国を上回る速さでこれらの機器を利用したキャッシュレスが進んでいるという。その背景やキャッシュレス社会の経済への影響、日本における今後の利用について考えてみたい。
◆スマホ利用の電子マネーがクレジットカードより当たり前な中国
金融関係の情報を提供するbobsguideグループのGTNewsは、上海大学の調査結果を掲載したBeijing Youth Dailyから、急速に進む中国のキャッシュレス化について伝えている。それによると中国には7億人のインターネットユーザーがいるが、その6割が日常的にスマートフォンなどのモバイル機器で支払いを済ませており、テンセントの「WeChatペイメント」やアリババの「Alipay」が2大プラットフォームとなる。Alipayで支払える施設は200万店のレストラントとスーパーマーケットの他、80万と20万ヶ所の駐車場とガソリンスタンド、2,000ヶ所のバスターミナル、さらに近いうちに3,000の病院でも利用可能になる。北京など大きな都市では小さなショップでもキャッシュレスへの取り組みに積極的だという。中国のキャッシュレスの特徴はモバイル機器を使っていることで、米国での利用の50倍にもなる。そのためバンクオブチャイナによると、2016年末までに中国人のクレジットカードの平均保有枚数は、2014年の0.34枚から0.29枚に減っている。
GTNewsはこの動きについて別の記事で、アジア地域におけるキャッシュレス化はさらなる経済成長を促し、マッキンゼーの試算によると、電子決済により6%または3.7兆ドル(約414兆円)の世界経済の上乗せが2025年までに期待できるとしている。
◆発展途上国のほうがキャッシュレス化が進む
ハーバードビジネスレビューでは、どの国がキャッシュレスに適しているかを、縦軸にデジタル化率、横軸に現金による決済のコストの高さを示した図で説明している。それによると中国、メキシコ、イタリア、そしてインドなどは電子マネーを使ったキャッシュレス化が進みやすい国として分類される。一方、実際のキャッシュレス化の進展度合いとは異なるところもあるが、スウェーデンやイギリス、フィンランドやデンマークはキャッシュレス化のポテンシャルは低いグループになる。韓国や日本、そしてアメリカはその中間といった位置付けだ。日本に住む私たちは町の中心から外れた場所でも、コンビニエンスストアや郵便局で口座から現金を引き出すことができる。このインフラを国土の広い中国やインドで日本並みに実現するとしたらどれだけのコストになるだろうか。ATMを必要としないキャッシュレス化が進んで当然なわけである。
◆東京オリンピックがひとつの目標
日本はどうなのだろうか。クレジットカードの契約数は2016年で2,317万件、一方解約も1,664万件あり、過去4年間の推移では明確に増えているとも減っているとも言い難い。ただ国民1人当たりのクレジットカードの保有枚数は多いが、月々の定期的な支払いなどに使われることが中心で、諸外国に比べれば日々の買い物をクレジット決済にしている率は低いとされる。
中国やインドに比べれば、現金決済でも日本の社会では困らない。現金は至るところで引き出せ、治安がよいので盗まれるリスクも低い。一方、カードはというとスキミング(カード情報を不正に読み取り、クローンカードを複製する)やカード破産などネガティブな情報のほうが強く、ポイントの蓄積やカード払いによる特典などの恩恵の訴求はいまひとつ弱い印象がある。しかし海外から訪日する旅行者にとってはどうだろう? そこで政府としては「日本再興戦略改訂2014」に、東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、キャッシュレス社会の推進を盛り込んだ。クレジットカードをより使いやすくする取り組みが中心だが、スマホ決済も同時に進められていくことになるだろう。
◆スマホ決済による効果
クレジットカード決済も時とともに習慣化されていくだろうが、日常の買い物では暗証番号を入力したりサインしたりするのは面倒で、なかなかその気になれない。キャッシュレス化を速めるには、「金融(Finance)」と「技術(Technology)」を組み合わせた意味の「フィンテック」の考え方を取り入れる必要がありそうだ。スマートフォンによる決済もこの概念に含まれ、さらに家計や企業の経費管理もICTのインフラ上で行い、ビッグデータやAI(人口知能)を駆使して、金融活動を最適化させる仕組みの総称が「フィンテック」である。話を中国にもどせば、そのキャッシュレスの高さも「フィンテック」によるものと言い換えられる(アジア・タイムズ)。
現金という「モノ」を扱うには、保管や移動、交換に物理的な力が必要とされるが、そのコストは小さくない。お金の流通の妨げになり、経済にとってはマイナスなのだ。オフィス街の朝のコンビニエンスストアの会計の行列は、一人ひとりが小銭を出して、そのお釣りを受領するという行為の時間から起きる。スマホをかざすだけの会計なら解消されるかもしれない。そうなると1品余分に買ってしまうこともあるだろう。それもひとつのキャッシュレスによる経済効果なのである。
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