上場しても拭えない、ビットコインのリスキーなイメージ
著:Adrian Lee(シドニー工科大学 Senior Lecturer in Finance)、Andrew Ainsworth(シドニー大学 Senior Lecturer)、KIHoon Hong(弘益大学校 Assistant Professor of Finance)
デジタル通貨のビットコインは2008年の設立以来、多くの批評家から本質的な危うさを指摘されてきた。最近、ビットコインの取引を簡素化するため、上場投資信託(ETF)を立ち上げる動きがあることからも、世間の評価がいまだに変わっていないことが見て取れる。しかし、ビットコインETFのリスクといっても、投資家や株式市場が取り扱う他の資産リスクとそう変わりはない。
米国証券取引委員会(SEC)は既にビットコインのETF認定申請を否認しているが、他にもSolidXとGrayscaleの二社から同様の申請がなされている。
ビットコインは通貨と同じような働きをするもので、これを使って品物を購入することができる。銀行の電子決済を利用するのと同じようなものだ。
さらに通貨同様、ビットコインには独自の為替レートが存在し、他の通貨と両替できる。ビットコインの歴史を見ると、投資家が熱狂的に代わる代わる買いに走ったかと思えば、疑心暗鬼になって売りに回るなど、価格変動は激しい。
ビットコインETFを立ち上げる動きがあるのは、関連ファンドに流入する金額が大きく増えているから、というだけではない。ビットコインのような非従来型の資産への投資は、ETFによって手続きなどの負担が大きく軽減されることになるのだ。
◆なぜビットコインETFなのか?
ビットコインを直接売買する場合、その手順は複雑で手間がかかる。ビットコインを保管するには専用の「ビットコインウォレット」やプライベートキー(秘密鍵)が必要だ。また、実際にビットコインを売買するには、世界中にあるビットコイン取引所のいずれかに直接アクセスしなければならない。一連の流れは専門性が高く、理解しきれないという投資家も多い。
ビットコインETFなら売買手続きが大幅に簡素化される。
ETFは株式市場に上場している運用ファンドだ。バスケット取引や持株会社のように考えてもらえればいい。
ビットコインETFの場合、設定したルールに応じて一定量のビットコインが「保有」される。投資家は、上場企業の場合同様、株式市場を通じてそれを購入できる。ETFの株式を買うような形で、実のところはビットコインの「シェア」を購入したことになる。
こういったETFは他のファンドと比べて透明性が高く、低価格である(ことが多い)ことから人気を集めている。アメリカの株式運用ファンドの管理手数料は平均すると年0.68%だが、ETFなら年間0.05%という低価格に抑えられる。つまり、初期投資額が1,000豪ドル(約8万2千円)なら30年間で207豪ドル(約1万7千円)の差額がでることになる。
上記の低額な管理手数料は、あくまで従来型のETF(債券や株式を保有するETF)を例にとったものだ。一部の複雑なETFの場合は、この限りではない。
たとえば、ビットコインETFはそれほど安価にはならないだろう。ビットコインは、株式や債券より管理が難しく、安全性の高い保管方法や損失した場合の保険が必要になるからだ。
Grayscaleの申請内容を見ると、年間手数料の目標値は2%だ。このETFに1,000豪ドルを初期投資した場合、運用益は大きく変わることになる。運用期間を30年とすると、取引所で購入したビットコインを自分のコンピューターで保管した場合と比べて、約811豪ドルも損をすることになる(ビットコインの取引手数料を差し引いても)。
株式市場に上場しているETFは、非常に「流動的」だ。つまり簡単に安価で時間をかけずに売買できる。実際のビットコインを売買するよりもETFに出入りする方が簡単だということだ。
ETFは毎日保有残高を公開する。これは取り扱っている対象が何にせよ、ETFの総価値が市場価格からかけ離れていないことを保証するための仕組みだ。
◆ビットコインETFのリスク
ビットコインETFにもリスクがある。これは株式や債券などの従来型資産のETFにも共通して存在し得るリスクだ。
欠点の1つは、ビットコインETFが広く普及した場合、投資家の利益が減少してしまう危険性が内在していることだ。ETFの動きが、基礎となるビットコイン価格の動きに影響を及ぼす可能性がある。
このような影響を受けては、本末転倒だ。もはやビットコインの価格が基本的な需要ではなく、投資家の需要によって決まってしまう可能性がある。ビットコインの多様性が生む恩恵も減少してしまうかもしれない。
投資家がビットコインを追い求める理由は、投資先に多様性を持たせるため、また非従来型の資産を扱ってみたいと考えるのかもしれない。しかし、ビットコインETFが投資家の需要に応え、市場での利益と連動するにつれ、その恩恵の多くが消えてなくなってしまうのだ。
こうなると、投資家が市場に参入するに伴ってビットコインの運用益は株式とともに上昇し、投資家が去った場合は逆のことが起きる。また、ETFの取引が容易になることで、投資家の需要がバブル(価格が過剰に高騰すること)を引き起こす可能性もある。
コモディティにおいても同様に、投資家と結びつくことによるリスクについて、議論がなされている。それが近年見られる「コモディティバブル」の原因だと言われているからだ(まだ議論は続いているが)。コモディティ投資はそもそも商品指数導入に伴って生まれたものだ。そして、本来は単純な株の長期保有戦略であったにもかかわらず、価格も同様に上昇してしまったことから議論が巻き起こっているのだ。ビットコインETFがポートフォリオに当たり前に存在する平凡な投資になれば、同じことが起こる可能性があるのだ。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac
photo via flickr/Antana, CC BY-SA