無人化・消えるレジ:日本のコンビニはICタグで一括計算、「Amazon Go」は画像認識でAIが処理

 セブンイレブン・ジャパンなど大手コンビニエンスストア5社が、買い物をした消費者が自分で会計を済ませるセルフレジのシステムを、2025年までに国内全店舗に導入すると発表した。その背景には人手不足や販売の効率化などがある。無人の会計を実現するコアとなる技術がRFID。ICチップ付のタグにすることでレジ入力作業を省けるので、レジ係のスタッフがいなくても会計ができるようになる。数年前から取り組んだ結果のアナウンスであり、経済産業省との共同発表で「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」と銘打たれた。

 一方、アマゾンが昨年12月、「アマゾン・ゴー」という無人店舗の試験運用を社内で始めたことは記憶に新しい。こちらはAIによる画像認識技術を基本としている。「アマゾン・ゴー」の登場による日本の小売業への影響が懸念されるが、今回のRFIDを使ったセルフレジシステムが、日本市場でアマゾンに先手を打ったことになるのだろうか。

◆アマゾン・ゴーにより起こること
「アマゾン・ゴー」はスマホのアプリなどと連動し、誰が店を訪れ、どの商品を棚から手にしたのかなど客の動きの一部始終を画像機器やセンサーで捉え、会計する方式。商品を棚にもどせば購入取り消しとなる。

 一方、RFIDはそのコストが1枚につき安いものでも10~20円ほどとされる。普及すれば1枚当たりの単価は下がり、また会計係の人件費も減るので、コストの問題はクリアできるのかもしれない。RFIDは日本の期待技術のひとつで、適用システムを海外へ販売することなども検討でき、経済産業省との共同発表にその思いが表れている。

 しかし、単にコストや効率、人材不足の解消などの効果だけで両者を比較していいのだろうか。フォーブス誌が「アマゾン・ゴー」の可能性をまとめているが、それによると、アマゾンはこのAI無人会計の仕組みを利益率の低さに悩む小売業に外販などで広く普及させ、本業のAmazon.comの売上も高めるという読みがあるという。ILSR(Institute for Local Self-Reliance)のレポートによると米国世帯の半数がAmazonの会員で、通販の売上の2ドルに1ドルがアマゾンの売上となる計算だ。ネット上で集まったこれらのデータと、リアル店舗で得られるスマートフォンからの位置情報や、訪れた時間帯、何を買ったかはもとより、手にしたが買わなかった商品のデータまでをリンクさせることができる。膨大なマーケティングのビッグデータを手に入れることになるのだ。例えば、購入履歴から冷蔵庫の中のストックの不足、賞味期限切れなどを予測した上でのレコメンデーション(購入検討すべき商品の案内)などもできなくもない。小売業と消費者の購入のあり方を大きく変えるテクノロジーであると同誌は結んでいる。同社の「アマゾン・エコー」(人口知能スピーカー)を持っている家庭では、「卵がなくなります」といった音声でレコメンドされるかもしれない。

◆労働者を減らすことになるのか?
 会計の無人化で小売業の店舗スタッフ数は減ることになる。UFCW(全米食品商業労働組合)では、「アマゾン・ゴー」が発表されてまもなく、「ストアの従業員はその地域の住人であることも多く、肉の切り方のアドバイスから必要な商品の探し出しまでを手伝い、その店の商品の安全性を保証している」と述べ、「優れた仕事やコミュニティを壊す仕組みであり、アマゾンは進歩することのみに強欲である」とする声明を発表した。「商品の安全性(すり替えや異物混入リスク)」を組合は訴えているが、略奪など犯罪への対策についてはアマゾンからまだ公表されていない。

 ニューヨーク・ポスト紙は、消費者調査会社のAmerica’s Research Groupの見方として、アマゾンの技術によって小売業の店舗従業員の75%が不要になる可能性があると報じている。小売業を対象にした調査会社のConluminoは、会計は顧客の購入プロセスの中でもっとも非効率な部分であるため、顧客満足度の向上が見込めると指摘している。

◆グローバル戦略の期待も高い
 ガーディアン紙も、店舗の返品対応やラッピング作業などは残るもののスタッフの削減は免れないと述べる。倉庫や運搬の作業においてもアマゾンの「フルフィルメント・センター」では長年の経験で開発されたロボットがすでに活躍しており、また大手小売りの会計のセルフサービスやマクドナルドのセルフオーダーの仕組みなどの事例から考えても、「アマゾン・ゴー」のようなシステムの普及は充分に予測できるとの論調だ。その上で、工場生産が主体だったころの政府のあり方や経済活動の仕組みの改革が求められるとし、ウーバー、Airbnb、Netflix、そしてグーグルやフェイスブックはすでに米国経済の再構築の一部を担っており、企業と雇用者の関係の見直しが必要であると述べている。アマゾンを含め、例にあげた企業はすべてグローバル企業であり。経済の拡大のためには国内の多少のマイナス面は仕方がないと読み取れなくもない。

 RFIDは、日本でも注目されるようになってかなりの年月が過ぎている。小売業では服飾などの商品タグにつけられる例はあるが、一般に普及したとは言い難い。その間にまた、アマゾンにやられてしまったという印象がないでもない。小売業やそこに商品を供給するメーカーや販売会社ならば、RFIDよりAIによる画像処理のほうが負担が少ないと感じるだろう。商品のひとつひとつにRFIDをつけることはひとつの経済効果となるだろうが、手間やコストがかかるようでは本末転倒となりかねない。

「アマゾン・ゴー」の今後の動きについて、アマゾンによると2017年のはじめは社外への拡大はないとする。しかし米国内では雇用問題も論じられるほどで、早くも普及が確実視されているように見受けられる。

「アマゾン・ゴー」でもAIの仕組みで管理できない部分(形が崩れ画像認識が難しい衣料品等)にRFIDを使うこともありえる。しかしあくまでも画像認識やセンサーによる商品の管理と、そのビッグデータの活用、それらのモデルの外販が主体となるだろう。そして当然グローバル展開を目指している。アマゾンが試験運用している店舗はコンビニエンスストアに類似したスタイルだが、この直営店だけが既存の小売業のライバルとは限らないことになるだろう。

Text by 沢葦夫