チップの「当たり前化」にうんざりするアメリカ人 デジタルで要求してこないで…

bigshot01 / Shutterstock.com

 アメリカでは飲食店などでサービスへの感謝の気持ちとしてチップを置いていく習慣があるが、近年あらゆるサービスでチップを求められるようになってきている。クレジットカードへの自動加算やデジタルス端末でのチップの入力なども消費者の頭を悩ませており、多くの人が不快感を示している。

◆どこでもチップ 払わなければ罪悪感?
 アメリカのレストランでは良いサービスを受けた場合、20%のチップを払うのが一般的だとされる。米マネー・トークス・ニュースによれば、これはサーバー(ウェイターやウェイトレス)の時給が最低賃金を下回ることが多く、その差額がチップで補われるためだという。

 英ガーディアン紙によれば、近年はレストランだけでなく、セルフレジ、ドライブスルー、ホットドッグスタンド、ドラッグストア、空港の自動販売機、映画館のチケット売り場など、意外な場所でチップを要求されたと報告されている。以前はチップは気前の良さから行われていたが、今では払わないと罪の意識を感じるものになっており、多くのアメリカ人がチップ文化が手に負えない状態だと考えている。

◆画面上で支払い催促 勝手に追加料金も
 問題をさらに複雑にしているのがデジタル化だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)によれば、コーヒーショップや売店での支払いの際、デジタル端末上で具体的なチップの額を提示してくることにうんざりしているという人も多い。WSJの記者は、以前はアイスクリーム店などにさりげなくチップ入れが置かれていて、さほど押しつけがましく感じることはなかったが、デジタル化されると厚かましく感じられると述べる

 さらに厚かましいと感じさせるのが、レストランが会計に手数料やサービス料として追加料金を自動加算する場合だ。WSJによると、地域の最低賃金の上昇を受け、急いで給与を上げざるを得なかったレストランがこういった対応をしている。これに対し客側からは、自分はあくまでチップだけを払いたいのに、レストラン側のビジネスモデルの欠陥の尻拭いをさせられるのは納得いかないという声もあるという。

 その一方、WSJが実施したアンケートでは、アメリカも他国に倣い、チップをやめてサービス料として食事の料金に含めるべきだという意見もあった。サービス内容を考慮したり、追加料金を差し引く計算をしたりする不要がないため、より分かりやすいという考えだ。

◆払うことには肯定的 あくまで自由裁量
 チップへの不満は多いが、アメリカ人は基本的に受けたサービスには対価を払うという考えを持ち、独自の方針を取っている人も多いという。サービスが悪ければチップの額を下げ最終的には二度と来店しない、サービスをしてくれた従業員本人に直接渡るよう現金でチップを置いていく、クレジット会社がサーチャージで儲けるのを阻止するため全額現金払いにする、などだ。また、インフレでレストランでの値段も上がりチップの額も増えていることから、より安いものを注文する、外食自体を控える、という意見も多かったという。(WSJ)

 マネー・トークス・ニュースは、社会的圧力があるにせよ、ほとんどの場合、チップは自由裁量だと指摘。外食費の高騰に伴い、チップに対するバランスの取れたアプローチを維持することは家計の健全化に必要だとする。ただし、適切な場面でチップを渡すことが喜びにつながるのであれば、ほかの場面で節約できるものを探し、気前よくチップを渡す余裕を作ることも大切だとアドバイスしている。

Text by 山川 真智子