「アジア人差別だ!」 ユナイテッド航空の乗客引きずり降ろし事件、中国人の怒り爆発

 シカゴ発ケンタッキー州ルイビル行きのユナイテッド航空機で、オーバーブッキングのため乗客が強制的に降ろされるという事件が発生した。叫び声を上げて抵抗し、口から血を流しながら引きずり出されるアジア系男性のショッキングな映像は中国でもソーシャルメディアを通じて拡散し、「同胞」へのひどすぎる扱いに、人種差別だと中国ネット民が怒りの声を上げている。

◆最悪の顧客対応映像が世界に拡散
 事件が起こったのは満席となっていた4月9日夜のユナイテッド・エクスプレス3411便。ルイビル発の別便に乗務予定だった自社のクルー4名の席を確保するため、ユナイテッド側が800ドルとホテル1泊分を提示して搭乗辞退者を探したものの、だれも応じなかった。そこで航空会社は、ランダムに選んだ4名の乗客に降機を求めたが、1名のアジア人男性だけが断固拒否したため、警官を呼んで、男性を機内から引きずり出してしまった。

 この騒動を見ていた別の乗客たちが映像をソーシャルメディアに投稿したため、瞬く間に事件は世界中に拡散し、ユナイテッドに対する批判の声が噴出した。当初は自社を擁護する発言をしていたムニョスCEOも事件の重大さに気が付き、男性に謝罪する声明を発表している。

◆アジア人への差別なのか?中国SNSから怒涛の非難
 事件は中国語圏最大のソーシャルメディア、「微博」でも拡散され、降機させられた男性がアジア系だったことから、すさまじいリアクションが起こっている。ロイターによれば、日本時間11日午後7時の時点で、すでに4億8000万人以上のユーザーが、このニュースをチェックしたということだ。

 AFPUSAトゥデイ紙によると、中国ネット民からは、「ありえない!」、「恥を知れ!」などの怒りのコメントが続出しており、「男性がアジア人だからやったんだ」、「肌の色で扱いを変えるなんて……なんて傲慢で失礼」、「アジア人に対する差別はずっと前からだ」などと、アメリカのアジア人差別に憤る意見が並んだ。AFPは、海外で暮らす中国人への同胞意識が今回のような激しい反応を生んだとしている。ちなみにUSAトゥデイ紙は、引きずり出された男性が、デビッド・ダオという名前で、1970年にベトナムの医大で学んでいた人物だと報じている。

 ニューヨーク・タイムズ紙 (NYT)によれば、中国国営テレビCCTVは「残酷」の一言を添えた血を流した男性乗客の写真を紹介。人民日報も、ユナイテッド航空がアジア人乗客への暴力について当初何のコメントもしなかったことに「大変失望した」と述べている。これについてNYTは、中国のニュースメディアは海外の中国系住民に向けられた暴力と人種差別のニュースを、人権問題に関する西側民主主義の偽善の証拠として取り上げることがしばしばあると述べ、オンライン上での議論も政治的なニュアンスが感じられるとしている。

◆中国路線への影響は必至。ネットの力、恐るべし
 ロイターによれば、ユナイテッド航空便は米中間の路線の20%を占め、中国国内で第3位の規模を持つ中国国際航空とも提携している。また、米航空会社としては最多の中国本土5都市に乗り入れており、国際線においては中国路線が重要な位置を占めていることは間違いない。

 しかし今回の事件をきっかけに、中国国内でユナイテッド航空をボイコットしようという呼びかけが広がっていると各紙が報じており、会社の業績に影響を与えかねない事態となっている。事件がアジア人差別であったかどうかは今のところ不明だが、思わぬところに飛び火してしまったことは、航空会社も誤算だったに違いない。

Text by 山川 真智子