任天堂「スイッチ」発売1ヶ月 家庭用ゲーム市場成長の海外で躍進できるか
AR(拡張現実)機能と位置情報の活用で、ゲームと現実世界を融合させたスマートフォンアプリ「ポケモンGO」。昨年夏の配信スタート以来、至るところでスマートフォンを片手にしたプレイヤーたちを目にするようになった。テクノロジー情報の配信サイトVenture BeatがApp Annie社の調査レポートをもとにまとめた記事によると、「ポケモンGO」の2016年の売上は全世界で9億5,000万ドル(約1,000億円)と推定され、ゲームアプリでは歴代3位、ダウンロード数は5億回にのぼり、8億ドルまでの売上達成の最短記録となったとされる。
共同開発とはいえ、任天堂はスマホ用のゲームアプリで地歩を築いたとも言えるわけだが、同社が今年3月に販売を開始した「スイッチ」は、家庭用の据え置き型とポータブル型が融合したゲーム機だ。市場の反響などについてまとめてみたい。
◆「ポケモンGO」の収益は限定的
「ポケモンGO」はアメリカのナイアンティック社と株式会社ポケモンによる共同開発だが、任天堂は株式会社ポケモンの32%の株式を保有している。「ポケモンGO」の収益の一部は持ち株の比率等に応じて任天堂に渡ることになるが、それでも2017年3月期第3四半期累計(2016年4-12月)の任天堂の売上高は対前年同期比26.9%減、営業利益は同38.1%減となっている。
そんな状況のなか今年3月に投入された「スイッチ」は、社運を賭けているともとれる。しかしその商品スタイルは、同社がこだわりと実績を誇ってきた家庭用のゲーム機。スマートフォンアプリの時代にどのような勝算があるのか、その注目度も高い。
◆芳しくない国内評
簡単に遊べて、使わなくなっても損のないスマーフォンの無料ゲームアプリが主流というのが、日本国内のゲーム市場に関する大方の見方だ。拡大が難しい家庭用ゲーム機市場に投入された任天堂の「スイッチ」だが、ソフトウェア不足などで不振に終わった「WiiU」を引き合いに、プレイステーション用ソフトの移植コストを気にしつつ、ソフトメーカーがどの程度「スイッチ」に動くかも売れ行きを左右するとの声も聞かれる。総じてゲーム機本体も現在利用できるソフトウェアも、コンセプトとして目新しさがないなどで厳しい評価が多い。
◆海外市場での評価
技術に関するニュースやイベント情報を配信する『VentureBeat』は、任天堂「スイッチ」は品薄状態であるが、調査会社のSuperData Researchのデータを引用し、すでに世界で150万台を販売した実績から増産計画にあると伝え、夏までには品不足も解消されるという見方を示している。この販売実績から、株価へのプラスの評価もありうるとも付け加えている。
しかしゲーム情報や産業のニュースを配信する『gamesindustry.biz』は、同じ調査会社のデータから、販売台数150万台の内訳として、米国50万台、日本36万台、フランス11万台、イギリス8.5万台とし、3月末までには200万台が売れるとの予測を伝えた上で、本体300ドルはやや高く、初期のソフトウェアが不足しているため立ち上がりは緩やかという評価だ。
家庭用ゲーム機のファン層をターゲットにした「スイッチ」にとって、プレイステーション(ソニー)やXbox(マイクロソフト)ユーザーにどこまで受け入られるかが大きな挑戦であると見る同調査会社の分析を紹介し、PS4は販売開始から3ヶ月未満で530万台売れ、非公式だがXbox Oneは2ヶ月間で390万台販売されたとしている。この2機種に比べると「スイッチ」はやや遅いが、14ヶ月で586万台の販売だった「WiiU」よりは先行しているとしている。ただし、アップルストアから販売をはじめたモバイル向け「スーパーマリオ ラン」が、無料バージョンの引き合いばかりで有料版は不振に終わったことについて触れ、投資家は1億台売った「Wii」並みの成功を期待しているはずとの見方を示した(gamesindustry.biz)。
◆世界のゲーム市場の現状と今後
海外での販売の滑り出しは悪くない。これには、国内と違い海外では家庭用ゲーム機市場がまだ伸長している背景がある。
ゲーム市場の調査・コンサルティング会社のnewZOOによると、2015年の世界のゲーム市場は918億ドル(約10.1兆円)で、スマートフォンゲームはそのうち24%の220億ドル(約2.4兆円)、TVコンソールタイプは30%で275億ドル(約3兆円)、それが2019年の予測では市場全体が1,186億ドル(13.1兆円)に達し、スマートフォンゲームが34%の403億ドル(約4.5兆円。年平均16.3%増)、TVコンソールタイプが26%で308億円(約3.4兆円。同2.9%増)となる。スマートフォン用のゲームに比べると伸び率は低いが、国内に比べれば海外の家庭用ゲーム機市場はまだ成長の見込みがありそうだ。
KADOKAWAの家庭用ゲーム雑誌「ファミ通」が発刊した『ファミ通モバイルゲーム白書2017』によると、スマホ向けなど世界のモバイルゲーム市場は2015年で3.6兆円となり、日本はその内の1兆円で世界最大のマーケットになる。やはり国内はスマホゲームアプリが優勢と見ることができるだろう。
任天堂は既存の技術やソフトウェア、顧客という資産を、規模も大きく家庭用ゲーム機市場がまだ成長している海外で活かし、次の一手を検討中であると見ることができないだろうか。新しい展開につなげる意味で、「スイッチ」の成功はぜひとも実現しなければならないだろう。