『君の名は。』の話題性はアカデミー賞に勝る? 注目される非ハリウッド映画の可能性

 米オンライン映画興行収入サイト、Box Office Mojoによれば、映画『君の名は。』の全世界興行収入は3億2700万ドル(約360億円、2月12日時点)に達した。昨年の公開以来、世界で最も話題になったアニメ映画の一つだが、今年のアカデミー賞長編アニメ映画賞にはノミネートされなかった。作品が正しく評価されていないのではという声もあるが、世界が多極化、グローバル化するなか、『君の名は。』のような非ハリウッド作品が米映画独占の映画界を変えるのではという意見もある。

◆過小評価?大ヒットでもノミネートなし
 昨年の公開以来、日本や他のアジア諸国で大ヒットとなった『君の名は。』は、『千と千尋の神隠し』を越え、日本映画では世界興収歴代トップとなっている。ウェブ誌『Vox』は、2017年のBox Office Mojoの世界興収ランキングで、『君の名は。』がトップ30入りすることはほぼ確実だと見ている(注:アメリカの公開日に合わせるので、同作は2017年作品となる)。PBSは、これほど人気があり、映画評論家たちがアカデミー賞に値すると讃えたこの作品がノミネーションも受けなかったことから、「アカデミーはどのように日本アニメを見ているのか」という疑問を感じざるを得ないとしている。

 フリーライターでアニメ誌「オタクUSA」の編集者マット・スライ氏は、映画の質に関しては、『君の名は。』にはそれなりの批評家や業界関係者からの批判もあったので、アカデミー賞のノミネートは政治的なものではなく、ハイクオリティな映画が受けるものであると考えたいのであれば、今回ノミネーションがなかったことはよかったのかもしれない、と述べている。(PBS)。

 もっともPBSにインタビューを受けた映画ファンは、『君の名は。』は、世界規模で最も話題になったアニメ映画の一つだとし、どんな映画賞の候補になるよりも、その事実の方が大切だと述べた。

◆客の嗜好も変化。アメリカ独占の映画産業は変わる
 Voxは、2016年の世界興収ランキングに言及し、トップテンはすべてアメリカ映画だと指摘。ここから言えるのは、これまでの映画産業はアメリカ中心に回ってきたということで、インドなど映画産業の盛んな国があるにもかかわらず、映画の隆盛がポップカルチャーのスーパーパワーとしてのアメリカの台頭と重なったことで、アメリカ映画の輸出がどの国よりも後押しされたと説明している。

 しかし、そのアメリカ支配にも少しずつ変化が現れている。世界の観客は、以前より自国の映画やアメリカ以外の作品を見るようになってきているからだ。中国や日本などは意欲的に映画を輸出しており、それなりの成功を収めているとVoxは指摘する。その一方で、アメリカの現在の稼ぎ頭のアクションものは、2000年代後半に人気だったものが多く魅力が薄れ始めている。新たな大作を作るには巨額の予算がいるが、世界の観客の多極化、グローバル化で、膨らむ製作費を回収できるほど海外でヒットする作品を作るのも難しくなっているようだ。今後も映画業界におけるハリウッドの地位が揺らぐことはまずないが、これまでのようなアメリカ映画が市場を独占する状態はだんだんとなくなるだろうとVoxは述べている。

◆主題歌英語版で勝負。「君の名は。」全米で公開へ
 さて世界でファンを獲得した『君の名は。』だが、やはりアメリカでどのように受け入れられるかは気になるところだ。北米公開は4月7日からだが、観客に合わせて主題歌は新たに書き下ろされた英語バージョンとなる予定だ。

 フォーブス誌に寄稿した日本のポップカルチャーに詳しいオリー・バーダー氏は、音楽がこの作品のなかでは大切で、特にクライマックスでは重要な役割を果たしていると指摘。英語詞にしたのは妥当な判断で、作品にもフィットしていると評価している。Voxは、全米で大ヒットということは恐らくないだろうとしているが、言葉のハードルを下げたことで、より受け入れられやすくなったことは事実だろう。世界一の映画市場での公開後の反応に注目が集まりそうだ。

Text by 山川 真智子