「アメ車」売れないのは日本のせいではない、米国市場のほうが閉鎖的 米メディア指摘

 トランプ大統領が「日本の自動車市場は閉鎖的」とし、日本でアメリカ車を売るのは不可能だと批判している。日本がアメリカに輸出する自動車の数に比べ、アメリカから輸入する数が少なすぎるのは「不公平」ということらしい。安倍首相の訪米を控え、日本政府はこの件で頭を悩ませているが、実は売れない原因は日本側ではなくアメリカ側にあると複数のメディアが指摘している。

◆貿易障壁はアメリカの方?日本は関税なし
 米商務省発表の2016年のモノの貿易収支(通関ベース)によると、日本に対するアメリカの赤字は、中国に次いで2位だ。2015年にアメリカに輸出された日本車は160万台以上だが、アメリカが日本で販売した自動車は1万9000台以下だという(ブルームバーグ)。これらの数字がトランプ大統領の発言につながっているようだ。

 多くのメディアがすでに指摘しているが、実は日本は輸入車に関税をかけていない。これに対しアメリカの輸入乗用車への関税は2.5%で、軽トラックにはなんと25%の関税が課せられている。フォーブス誌に寄稿した自動車産業の専門家、バーテル・シュミット氏によれば、軽トラックはアメリカの自動車販売の約半分を占めており、高関税率によって自国の自動車メーカーを守っているという。オンラインメディア『Jalopnik』のアジア特派員、キャット・カラハン氏は、アメリカには新車のときからアメリカで販売されていない車種は25年間輸入禁止というルール(事実上国産車を保護するためのもの)があるが、日本の場合はやろうと思えば個人でも、いつでもアメリカから車を輸入できると指摘する。貿易障壁があるのはアメリカの方と言える。

◆非関税障壁も改善。アメリカよりスムーズ?
「日本市場は閉鎖的」という意見は馬鹿げているというのが、シュミット氏にインタビューを受けた、ジャガー・ランドローバー(JLR)・ジャパンのマグナス・ハンソンCEOだ。同氏は、日本市場は決して特異なマーケットではないと断じる。

 日本の輸入手続きは煩雑だという意見もあるが、ハンソン氏は、現在はEU基準に近くなり、以前と比べずっとスムーズになったと述べる。日本の公道仕様にするための費用が別途かかるという指摘に対しても、若干の管理コストやパーツの変更はあるが、それは各国共通で日本だけの問題ではないとした。また、自動車の認証制度に関しても、衝突実験や排ガス基準など独自の基準を多く持つアメリカに比べれば、日本のシステムのほうが、明らかにスムーズだとしている。

◆アメ車の性能向上も、日本人の認識は変わらず
 ではなぜアメリカ車が日本で売れないのか。カラハン氏は、実際にはアメリカ車の性能は格段に向上しているが、いまだに日本では昔のイメージのままで、これが日本で売れない最大の理由だと指摘する。また、日本では総排気量と年数で自動車税が計算されるため、どうせ同じ額の税金を払うのなら、故障が少なく中古でも高く売れる日本車にしておこうという消費者心理が働くと説明している。

 国産が好きなのも日本人の特徴だと同氏は指摘する。自分達の車にプライドを持っており、意図的に何か違うものにトライしようとしない限りは、日本の消費者は日本製への忠誠心が強いと述べている。

◆日本車と戦うな。市場開拓には忍耐も必要
 JLRジャパンのハンソン氏は、そもそも日本市場にはすでに多くの自動車メーカーがあり、同じ土俵で勝負しようとすること自体が間違っていると述べる。JLRジャパンでは、レンジローバーの3,000万円する車種を筆頭に、高級車を取り揃えている。年間6,000台ほどの販売だが、1台1台から大きな利益が上がる儲かるビジネスだ。日本でのビジネスはJLR全体の2%ほどだが、世界で最も難しいとされる日本市場で成功していることは、まさに一流の証なのだという。

 同氏は、アメリカが売り込むべきは、すでに日本車に支配され、入り込む隙のない大衆車ではなく、日本メーカーには作れない高級車だと述べる。日本にはまだまだ外国車の潜在需要があるのに、アメリカの自動車メーカーは高級車市場の開拓を怠ったと指摘し、自動車販売には、販路、商品ラインナップ、ブランド戦略に関する長期的展望が必要で、お金はかかるが忍耐と一貫性も大切だと指南している。

Text by 山川 真智子