トランプ大統領の入国制限令、米大学のレベル低下の恐れ 米学会ボイコットの声も
イスラム圏7ヶ国からの米国への入国を制限するトランプ米大統領の大統領令に対し米連邦地裁が一時差し止めを命じたが、今後差し止め命令が覆される可能性もあり先行きは不透明だ。そのような中、入国制限が学術研究へもたらす影響に注目している人も少なくない。というのは、グリーンカード保有者や既にアメリカで研究を行っている人はもちろん、今後渡米し各大学において研究プロジェクトに関わる予定の人や学会に参加する予定の研究者にもその影響が及ぶ恐れがあるからである。
◆学術研究と多文化の必要性
一般に、多文化の環境が異文化の理解を深めて創造性を育み、新しい知識を生むと考えられている。従来アメリカの各大学では、研究成果に好影響をもたらすとされている多様性が非常に重要な役割を果たしてきた。しかし、トランプ大統領の入国制限によってアメリカの大学で活動する外国人研究者の数が減る可能性があり、研究成果への悪影響も予想される。
アトランティック誌によると、2015年9月から2016年6月に12,000人以上のイラン人が米大学で勉強するために渡米した(シリアやスーダンなどの他の入国制限対象国からはそれぞれ2,000人以下)。入国制限措置のゆくえ次第では、これらの学生の渡米がかなわず、学術研究への悪影響も考えられる。
◆入国制限への各大学の反応
アカデミックの世界においても入国を制限する大統領令に対して賛否が分かれている。保守派として知られている全米学者協会(National Association of Scholars)の総長ピーター・ウッド氏は、学術研究への悪影響が誇張されていると述べた。一方、プリンストン大学学長のクリストファー・L・アイスグルーバー氏は、移民・難民として渡米した自身の両親の過去について述べながら、多文化環境がもたらすメリットを主張し、入国禁止令がもたらす悪影響への懸念を表明した(アトランティック誌)。
また、アメリカの各大学に関するニュースを配信するUSAトゥデイ・カレッジは、入国制限に対する全米のデモの情報を随時に更新し、各大学の声明書をまとめている。アメリカの各大学が入国制限を拒否された学生や研究者たちの状況について憂慮を示し、大統領令への反対を宣言している。また、ニューヨーク大学をはじめ、今後も学生・研究者の個人情報を保護し続けると公表した大学学長が少なからずいた。
入国制限が今後どのように入国禁止対象の国籍をもつ学生・研究者の生活に影響するかは定かではない。しかし、各大学は既に具体的な対策を講じている。入国を拒否される危険性を避けるため、入国禁止対象の国籍をもつ学生・研究者にアメリカから出ないよう忠告する大学が多い。一方、マサチューセッツ州にあるウィートンカレッジは、入国制限対象国の学生を支援する立場を強調し、移民・難民向けの新たな奨学金制度を設けた(ワシントン・ポスト紙)。
◆アメリカの学術学会をボイコット
英ガーディアン紙上でクイーン・メアリー (ロンドン大学)のヘレン・マッカーシー准教授は、大統領令の影響で入国を拒否される研究者への協調を表明するためアメリカにおける学術学会をボイコットすべきではないかと呼びかけている。この提案に対しては賛否が分かれている。
カナダではアメリカでの学術学会へのボイコットを求める請願への署名者が既に4,000人に達した。請願を支持する人の中で、一部の人々の参加が認められていない学会において自由に学術研究を行えるはずがないと主張する人が多い。一方、アメリカでの学会をボイコットし、他国で学会を開催するという選択肢は、アメリカ在住の入国制限対象国の研究者は参加できないため、彼らをよりいっそう孤立させる危険性があると懸念する人もいる(加トロント・スター紙)。
◆知識を生むために必要な多文化
トランプ大統領の入国制限により入国を一時拒否された、あるいは米国便の搭乗を拒否された人の中で、米大学に在学中、あるいはアメリカで研究プロジェクトに参加する予定の者も多数いた。
状況が進行している中で今後入国制限がどのような形を取り、どのように学術研究に影響を与えるかを判断するのは容易ではない。それでも、「安全確保」というスローガンのもとに国籍、人種、宗教などによって入国を禁止することの影響を侮ってはいけないだろう。知識を生むことが本来の目的である大学は、創造性を促すよう多文化環境を作り、アイデアを交換できる場を学生に提供する義務がある。また、国籍、人種、宗教と関係なく、誰もがその場を活かせるよう常に警戒すべきであろう。