「涙が止まらない」オバマ氏のさよならスピーチ、なぜ人々の心を強く打ったのか?
20日に8年の任期を満了し退任するアメリカのオバマ大統領が、10日の夜(日本時間11日午前)に最後の演説を行った。自身の功績に言及するとともに、民主主義と多様性の大切さを訴えた力強いスピーチだった。演説の最後には、家族や副大統領への感謝の気持ちも表し、涙を拭く大統領の姿にもらい泣きする人々が続出した。聞く者の感情を揺さぶる大統領のお別れの挨拶は、まさに「全米が泣いた」珠玉の演説となったようだ。
◆大統領、家族の涙に、視聴者もうるうる
ウェブ誌『クウォーツ』は、オバマ大統領の演説はいくぶんアカデミックな調子で始まったものの、最後には聞く人に語りかけるような広がりを見せ、その場の聴衆やテレビの視聴者を涙させた、と述べている。
各メディアとも、特に感動を誘ったのは、大統領が家族とバイデン副大統領に感謝を述べた場面だったとしている。大統領が、ミシェル夫人を25年来の「親友」と呼び、「自分が求めたわけではない役目を引き受け、思いやりと勇気と品位とユーモアでやり遂げてくれた」と涙を拭きながら語ると、長女のマリアさんは涙し、2万5000人の聴衆も、夫人にスタンディングオベーションを送った。子供達には、「人生において一番の誇りは、君たちの父親であることだ」と述べており、クウォーツは、この言葉が多くの親たちの目を潤ませたと述べている。8年間苦楽をともにしたバイデン副大統領については、「兄弟を得た」と述べ、こちらも見る者の涙を誘ったようだ。
◆SNSにも、涙のメッセージ。ジャーナリストも泣いた
Cox Mediaによれば、演説を視聴した人々からツイッターに、「あたし、すでに泣いてる…。大統領、愛してる」、「バラクも、ミシェルも、マリアも、あたしも泣いてる」、「イエス、ウィーキャン。ありがとう、ありがとう、ありがとう」などのツイートが寄せられたという。ホワイトハウスのフェイスブックにも、数千人から「心が痛む」といった感情をこめたメッセージが寄せられ、多くの人々がオバマ大統領の退任を悲しんでいたようだ(クウォーツ)。
涙したのは一般市民だけではない。米ニュースサイト、バズフィードのジャーナリストたちも、「こんなに泣いたの、ビヨンセのツアー以来」、「いつになったら涙が止まるの」、「すんごい悲しい」、「これ、今までの連続もののテレビ番組で最も悲しい最終回」などとツイート。なんとバズフィード社の公式ツイッターアカウントまで、「同じく」とつぶやいた。ちなみに、ビジネス・インサイダー誌によれば、ジャーナリストは政治的意見を公の場で表現することは控えるというのが業界の常識で、バズフィード社の倫理ガイドでも「レポーターや編集者は、候補者や政策課題について一方に偏ってコメントすることを控えるべき」とされている。抵触するかどうかはさておき、感動はジャーナリストたちを止められなかったようだ。
◆トランプ政権への不安も涙の原因?
オバマ大統領の退任演説が涙を誘った最大の理由は、なんといってもその家族愛だが、別の理由として、トランプ次期大統領がオバマ大統領と対照的であることが上げられている。クウォーツは、8年間セックス・スキャンダルが一切なかったオバマ大統領とその家族が、下品なスキャンダルまみれのトランプ氏に道を譲ることに人々が不安を感じたことが影響したのでは、と述べている。
ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、チャールズ・M・ブロー氏も、人々は退任演説で、オバマ大統領を失うことの重大さに気づいたと述べ、功績への評価は分かれるが、オバマ大統領は賢く歴史に名を残す雄弁家で、威厳と敬意をもって行動するリーダーだったとし、よき人、よき大統領であったと述べる。そしてトランプ氏が大統領になり、スキャンダル、争い、粗雑さ、がさつさ、執念深さをワシントンにもたらした後に、オバマ大統領のよさを皆が思い出すだろうと述べている。
クウォーツは、8年前の多様性と寛容さを目指した社会から今のアメリカは深く醜く分断されてしまったこと、また、オバマ大統領を何としてでも成功させたくないという反対派のおかげで、政党間での協調性が失われ、政治のプロセスが根底から壊れたように見えることも不安の涙につながったと見ている。その一方で、オバマ大統領が演説の中で20回も「民主主義」という言葉を使い、国民、とくに若い世代に向け、「民主主義をさらに進展させて」と最後に希望を語ったことで感動の涙が広がった、と説明している。