カジノ合法化の動き、世界大手が日本に食指 韓国での開発から手を引く企業も
世界の大手娯楽産業企業が、日本の動向に注目している。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備を推進する法案、いわゆる「カジノ法案」が12月2日、衆院内閣委員会で採決されたためだ。なかには、日本でのカジノ展開を視野に、他国で途中まで進んだプロジェクトへの投資を引き上げ、今後は日本での展開に意欲を見せる企業もある。
◆カジノ大手が日本に食指
フォーブスによると、カジノ大手のゲンティン・シンガポールが、韓国の済州島で開発中の総合リゾート、リゾーツ・ワールド・チェジュに保有する株式(50%)を4億2000万ドルで売却することに合意した。今後は、同社がシンガポールに展開するリゾーツ・ワールド・セントーサや日本に注力していくようだ。同社のKT・リム会長はCNBCに対し、日本の総合リゾート型カジノはシンガポールを手本にしていることから、日本での展開は競合より同社が有利だと考えており、同社にとってもまた、シンガポールより大規模となる日本の市場が魅力的だと語った。
ブルームバーグによるとハードロックカフェ(カジノが併設されたホテルなどを経営)は、日本でカジノが合法化された場合はライセンス取得を考えており、現在は提携相手となる日本企業や組織を探しているという。同社は売上の半分をカジノ事業から上げている。
一方でラスベガスに本社を構えるMGMリゾーツ・インターナショナルは、日本でカジノが合法化された場合、不動産投資信託(REIT)方式で5000億円から1兆円を投じ総合リゾートを展開する意向であることをロイターに明らかにした。同社のジェームス・ムーレンCEOはロイターとのインタビューで、「複数の優良企業が興味を示すだろう」と語り、日本市場に期待が高いことを示唆したという。
◆アジアの既存カジノ市場に暗雲?
ゲンティンが資金を引き上げた済州島では、通常韓国への入国にビザが必要となる中国人観光客にビザが免除されている(一方、韓国人のカジノ入場は1ヶ所を除き制限されている)。そのため、済州島のカジノは中国人客を主なターゲットとしてきたわけだが、フォーブスによると、ここのところの中国経済成長の鈍化や、中国政府による富裕層を対象とした汚職取り締まりの強化に伴い、中国人客が激減している。かといって地元の韓国人客は見込めないため、済州島でカジノ・リゾートが供給過多になっている状況なのだ。マカオやシンガポールなど、中国人観光客を相手に成長してきたカジノ・リゾートはどこも同じような影響を受けているという。
さらに、投資情報誌バロンズによると、マカオ政府は先ごろ、12万パタカ(約170万円)以上の現金や小切手などの持ち込みや持ち出しには申告を必要とする法案を提出したという。資金洗浄を封じ込めることが狙いだ。
◆日本が魅力的なワケ
こうしたことから、マカオや韓国済州島でのカジノ・リゾート展開に不安が広がるなか、世界第3位の経済大国である日本でのカジノ合法化は魅力的に映るようだ。投資仲介事業を行うCLSAのアナリストがブルームバーグに語ったところによると、日本でカジノが合法化された場合、市場全体で100億~400億ドルの収益が見込まれ、昨年の収益が300億ドルだったマカオを上回る可能性があるという。ブルームバーグによると、ハードロックカフェのハミッシュ・ドッズCEOは、日本への観光ブームに加え、どこにでもパチンコがある現状をみると、国内からのカジノ需要も大きいだろうと予想しているという。
◆課題は山積
マカオの英字新聞マカオ・デイリー・タイムズ(澳門每日時報)は、日本のカジノ業に対する懐疑的な見方を示したリアンダ・リー氏(カジノ事業コンサルティング会社パートナー)の寄稿を掲載した。それによると、日本の世論調査では大部分がカジノ解禁に反対しているため、自民党が国民を説得できるまでには長い時間がかかるだろうとしている。また、ギャンブルの良い面・悪い面についての議論や、複合リゾートのコンセプト作りや規制の整備、国民のアクセスの可否、ギャンブル依存症、資金洗浄、組織犯罪といった問題点など、協議しなければいけない課題は山積だと指摘する。今回可決を目指しているのは実施法案ではなくその前段階の推進法案であることなどから(推進法成立後、詳細を詰める実施法が制定される)、すべてがスムーズに進んだとしても2023年より早く成立することは考えられないという。
カジノ解禁となれば確かに日本経済は潤うかもしれない。しかし日本経済と同様に日本国民を守ることが果たしてできるのか。リー氏が指摘したような諸問題に政府はどう取り組んでいくのか、注目していきたい。