ピンク色の車両は解決になるのか? 世界における女性専用車両議論

 日本において「女性専用車両」はもはや当たり前の存在であると同時に、依然として賛否両論が分かれるテーマでもある。「女性や子どもを性犯罪から守るべき」という声もあれば、「男性差別ではないか?」と主張する人もいる。昨今オーストラリアや英国をはじめ、女性専用車両制度を導入しようとしている国においてもその議論が熱を帯びるようになった。

◆シドニーにも女性専用車両が登場するか?
 欧米では女性専用車両にまつわる議論が改めて注目を集めている。既に2015年に英国の労働党党首ジェレミー・コービンが女性専用車両制度を導入すべきだと主張した際に賛否が分かれたが、2016年4月にオーストラリア鉄道・トラム・バス労働組合が同じ提案をして再び議論を呼んでいる。

 英紙デイリー・メールによると、鉄道・トラム・バス労働組合の書記長は、女性や子どもに夜でも安全に公共交通機関を利用してもらうためにシドニーに20時以降の女性専用車両制度を導入する必要があると主張した。

 彼の発言に対して批判的な声も上がっているが、実は世界中に女性専用車両制度を導入している国は少なくない。

◆世界中における女性専用車両事情
 イランでは通勤バスが男女別で分けられており、夫婦でさえ別々に乗る必要がある。地下鉄は女性専用車両があるが、性別分離が義務づけられていない。インドの地下鉄も女性専用車両があり、ムンバイやデリをはじめ、大都市では女性専用電車もある。また、ドバイの地下鉄は時間制の女性専用車両がある上に、女性だけ利用できる女性運転手のピンクタクシーまである。

 その他、ブラジル、メキシコ、エジプトなど、2000年代後半に女性専用車両を導入した国は少なからずある。一方、台湾やインドネシアなど、一時的に女性専用車両制度を導入したが中止した国もある。

 性犯罪を防止するために女性専用車両を導入している国は少なくないが、場合によって規制を守らない男性も多く、この制度を導入したからといって性犯罪の数が減ったとは限らない。

◆安全な社会を作るために男女を分離する必要があるのか?
 日本と同様に、英国やオーストラリアでも女性専用車両議論は賛否が分かれており、反対する人の中では極端な意見もある。オーストラリアのフェミニスト作家エヴァ・コックスが、女性を守るために性別分離を行うなら、犯罪者である男性のためだけの車両を作るべきではないかと述べている。

 また、男女問わずジェンダーバイアスの危険性に注目しながら女性専用車両の導入に反対する声も上がって。英紙「ガーディアン」のジャーナリストガブリエル・ジャクソン氏が指摘しているように、女性専用車両制度が、女性が守られるべき弱い存在であるという概念だけでなく、多くの男性が危険であるという考え、また安全な社会のためには男性と女性が分かれているべきだという考えをも広めてしまう可能性がある。

 性犯罪の問題を徹底的に解決するためにはピンク色の車両だけでは十分ではないと思われる。被害者と加害者を性別で分離するのではなく、パトロールを強化し性犯罪をより一層厳罰化すべきという意見も重視する必要があるのではないだろうか。

Text by グアリーニ・レティツィア