中国に活路を求めるプーチン大統領、訪中で望むものとは? 日本への揺さぶりも?
ロシアのプーチン大統領は25日、中国を公式訪問し、習近平国家主席と会談する。ロシアはクリミア併合をめぐって欧米各国などから厳しい制裁を課される中、中国との経済関係強化を図っており、今回の訪問中も、30件以上の投資協定や事業契約などが結ばれるとみられている。とはいえ、中国側とは温度差もあるようだ。
◆欧米の制裁で中国への接近を強めるロシア
ロシアは2014年3月のクリミア併合をめぐって、アメリカやEU、日本などからさまざまな制裁を課されている。そこへさらに、ロシアの主要輸出品である原油の価格下落、ルーブル安が追い打ちをかけ、景気後退に陥り、財政が悪化している。
そこでロシアは、アジアでのお愛想作戦に出ている、と語るのは米ニュース専門放送局CNBCである。米ニューズウィーク誌は、ここ2年を通じて、ロシアが最重要パートナーの1国として誇ることができるのは中国だと指摘する。CNBCは、制裁と原油価格急落でロシア経済がよろめいている中、プーチン大統領は習主席を頼りとしている、とまで述べている。
AP通信は、アメリカが世界を牛耳っていることに対抗したいという両首脳共通の望みと、首脳個人間の強固な結びつきが、両国の協力を後押ししている主要な原動力とみられる、と分析している。
◆ロシアは中国に投資を望むも、頼みのエネルギー産業は低迷傾向
CNBCによれば、ロシアが中国に期待しているものの筆頭は、自国への投資の拡大である(日本に対しても同様だろう)。悪く言えばお財布である。
AP通信によると、ロシアは制裁により、世界の金融市場へのアクセスを遮断されている。そこでプーチン大統領は、中国との関係がその代替になりうるということを欧米に示すために、2015年3月に訪中し、30年間で4000億ドル(約42兆3600億円)規模という天然ガスの超大型契約を含め、多数の契約の締結を取り仕切ったという。その後も、中国の国有企業からロシアのエネルギー分野への投資などの案件がまとまっている。
だが、エネルギー価格の低迷やルーブル安を嫌って、頓挫した計画も多いようだ。AP通信によると、2014年には1000億ドル(約10兆6900億円)近くだった両国間の貿易高は、2015年には600億ドル(約6兆3500億円)程度にまで急減した。その主要な要因は、世界的な原油価格の低迷と、急激なルーブル安の進行だった。ロシアから中国への輸出の3分の2をエネルギー資源が占めているという。
AP通信は、中国をヨーロッパの金融市場の代替として利用するというロシアの期待は果たされていない、と語る。
また今回の訪問では、ロシア国有の巨大石油企業ロスネフチの株式の一部売却について話し合われる可能性がある。ロシアは財政の赤字を埋めるため、同社株の19.5%を中国とインドに売却しようと試みているようだ。CNBCによると、その額は110億ドル(約1兆1650億円)に及ぶ。
ところが、米シンクタンク、ストラトフォーのロシア担当アナリストのローレン・グッドリッチ氏がニューズウィーク誌に語るところによると、中国はこの取引に乗り気ではないという。「それは中国がすでにロシアで多数の投資を行っているからで、また中国には、かつてほど投資に回す金がない」からだそうだ。しかし昨今の中国からアメリカなどへの投資状況を見るかぎり、「投資に回す金がない」というよりもやはり中国にとってロシアへの投資は魅力がなくなってきているということではないか。
◆軍事関係は着実に進展
一方、軍事関連では、両国の関係は着々と深化しているようだ。AP通信は、より緊密な経済協力を目指す野心的期待は実現していないものの、両国は軍事関係を強化してきた、と語っている。これには合同演習とミサイル防衛交渉が含まれるという。
また、ロシアから中国への武器輸出は、1990年代にピークを迎えた後、劇的に減少したそうだが、それがいま盛り返してきているという(AP)。ニューズウィーク誌は、今回の訪問で議題になりそうな項目の筆頭に、武器販売を挙げている。米シンクタンク大西洋評議会のアグニア・グリガス上席研究員は「欧米の制裁と2014年の原油価格低下以来、武器販売はロシアの予算にとってますます重要になっている」と同誌に語っている。
今回の訪問では、ロシアのロケットエンジンRD-180の中国への供給の合意が目玉になりそうだ。このエンジンは軍事衛星の打ち上げなどに使用されうる。
◆「ロシアは孤立していない」アピール
もっともロシアにとっては、こういった個別の案件の進展以上に、中国と親しく外交交渉を続けているという事実そのものが重要なのかもしれない。先述のグッドリッチ氏はCNBCにおいて、「ロシアは欧米に対し、世界から孤立していないことを示そうと試みている」と語っている。ニューズウィーク誌は、「プーチン大統領には、友人がいると示す必要がある」と語っている。同誌によれば、欧米に対し、ロシアを孤立させる政策は失敗しているとアピールするためのようだ。
プーチン大統領が中国を訪問するたび、欧米において、両国政府がより深化した協力をじっくり考えているという懸念がかき立てられそうだ、と同誌は語る。ロシアへの制裁維持については、ヨーロッパ内でも意見の違いがあるが、グッドリッチ氏は、ロシアと中国の関係が深化しているように見えることが、それをさらにかき立てるとみなしている。
またグッドリッチ氏は、ロシアと中国の接近は、日本にとって不安を呼ぶ性質のものであることを指摘。「プーチン大統領は、自身が東アジアの大国同士を張り合わせることができると承知している。日本には、ロシアと中国が会談する際には、東シナ海に関して両国が合同計画を立てることへの大きな心配が常にある」と語っている。「露中両国間の正式な同盟の可能性は小さい。しかしながら、どちらの国にとっても、自身の存在を知らしめ、日本に、何か計画しているのではないかと確信を持てなくさせることは、常に有効だ」と同氏は語る。日本にロシアの意図を読めなくさせることも、ロシアの外交方針には含まれているのかもしれない。