豪潜水艦:日本との関係悪化を危惧する豪識者 “日本への対応に問題”“早く外相を派遣へ”
オーストラリアは、総額500億豪ドル(約4兆3000億円)と言われる次期潜水艦開発事業のパートナーとして、フランスを選定したと発表した。世界最高峰と言われる性能の「そうりゅう」型潜水艦を安倍首相自らが売り込み、一時は受注確実とまで言われていただけに、今回の決定が今後の日豪関係に悪影響を及ぼすのではないかという意見も出ている。
◆落選の理由にチーム内の温度差
ターンブル豪首相は、フランスのオファーが豪独特のニーズに応える最良のものだったと、選定理由を説明している(フィナンシャル・タイムズ紙、以下FT)。日本落選の理由としては、巨大防衛輸出プロジェクトの経験が浅いことや、現地生産に消極的だったことが懸念されたためと多くのメディアが報じているが、ブルームバーグとFTは、チームとしての日本側の協力がうまくいっていなかったことも、理由の一つだとしている。
日本国際問題研究所の小谷哲男主任研究員は、日本企業(三菱重工と川崎重工)と防衛省関係者が安倍首相の熱意を共有しておらず、全力で勝ちを取りにいかなかったと指摘する(ブルームバーグ)。企業側と海上自衛隊は、どちらも潜水艦技術供与には消極的で、その秘密はアメリカにさえも渡したがらなかったと同氏は述べ、「安倍首相は技術供与に積極的で政府関係者はそれに応えなければならなかったのだが、結局のところ日本政府の準備ができていなかった」としている(同)。
入札過程に関与した日豪の関係者は、日本の提案が取引条件において最も弱かったと指摘し、日本の経験不足が随所に表れていたと述べている。入札過程に入ってやっと、三菱重工がリード役となることが確認され、提示された書類にも豪側がかなりの改訂を求めることもあったという。首都キャンベラを訪れたのは、それまで共同作業をしたことがない、官僚と企業の重役からなる扱いにくい混成チームだったということだ(FT)。
◆最大の貿易国かつ脅威である中国の影響
シドニー・モーニング・ヘラルド紙(SMH)は、もともと日本はアボット前政権から「暗黙の承認」を得て、豪潜水艦プロジェクトに参加していたのは良く知られているところだとし、今回の落選について日本側が説明を求めていると報じている。いくつかのメディアは、日本外しに影響を及ぼしたのは中国の存在で、昨年9月に経済重視で中国寄りのターンブル政権が誕生し、中国と仲の悪い日本から潜水艦を買うことを避けたのではないかと見ている。
ディプロマット誌は、中国に対するオーストラリアの感情は複雑だと述べる。貿易経路である南シナ海の航行の自由を維持するため、豪は(中国の)南シナ海での一方的な力による現状変更について明らかに反対を表明しているが、実は豪の最大の貿易相手国はまさにその中国であり、これらの矛盾する圧力が、中国に対する豪の精神分裂病的な政策を生んでいると同誌は述べる。
同誌によれば、ターンブル首相は豪海軍艦船を南シナ海の係争海域に派遣することについてコメントを控えており、南シナ海問題に対するアクションの欠如や曖昧な表現に野党から批判も出ているという。豪シンクタンクのサイト『Interpreter』は、そもそも潜水艦の建造は、中国の軍事力強化に対抗するためだと指摘し、どの国に発注しても、中国としては気になるところだろうとしている。
◆日豪関係修復は急務
豪戦略政策研究所のシニアアナリスト、アンドリュー・デービス氏は、フランスの提案が優れていたと認めるが、「日本への対応に問題があった」と指摘する。もともとアボット氏が内定を出しておきながら、政治的理由で競争入札となり、リークされた情報で、日本は入札に負けたと知らされたという。これでは日豪関係に害を与えることになりかねず、なんらかの関係修復の努力は必要だと同氏は述べている(SMH)。
同研究所の防衛経済アナリスト、マーク・トーマス氏も、中国への配慮が日本を外した理由ではないこと、そして防衛協力の別のやり方を探すことを日本に対して明確にする責任が、ターンブル政権にあると述べ、豪外相を即座に日本に派遣することを勧めている。「巨額の契約を失って笑顔を見せることはできない」と述べる同氏は、今回のことが深刻な打撃となるかどうかは、両国の対応の仕方次第だとしている(ブルームバーグ)。