2店目を発表、米アマゾンがリアル書店をオープンする狙いとは? 現地メディアが分析

 昨年11月にシアトルで初の書店をオープンさせたアマゾンが、サンディエゴで2店目を開店することを計画していると発表した。電子書籍の売り上げが落ち、紙の書籍の売り上げが安定しつつある中、アメリカの書店は、アマゾンの実店舗参入本格化に神経をとがらせている。

◆書店は復活の兆し
 電子書籍の台頭や、安い書籍のオンライン販売に押されて低迷していた書店業界だが、ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)によれば、このところ業績は持ち直しつつあるという。「ショップ・ローカル(地元で買おう)」ムーブメントにより、オンラインに流れた客が近所の書店に回帰しており、小さな書店の売り上げは増加している。2015年の全米書店協会の登録加盟店は、2009年に比べ35%アップの2227社。加盟店の売り上げ数も、2014年比で10%以上増加した。同協会のチーフ・エグゼクティブ、オレン・タイシャー氏によれば、支店オープンへの投資、オーナーの引退に伴う新オーナーへの店舗継承など、良い流れも見られるという。

 そんな折、アマゾンが実店舗ビジネスに参入することは、多くの書店にとっては脅威となり得る。書店や図書館向けのオンライン・ニュースレター『Shelf Awareness』の発行人、ジェン・リスコ氏は、昨年の実店舗での書籍販売は8億ドル(約900億円)以上で、アマゾンにとっても魅力的な市場だと説明する。セールス、ビジネス拡大のため、アマゾンが実店舗販売にも触手を伸ばしてきたと同氏は捉えているようだ(テクノロジー・ニュース・サイト『GeekWire』)。

◆目的は書籍販売ではない?
 アマゾンの実店舗進出の意図は明らかにされていないが、目的が書籍販売以外にあると指摘する声もある。

 シアトルの店舗を訪れたニューヨーク・タイムズ紙(NYT)の記者は、店内は明るく清潔で、通常の大型店と同様だと述べるが、本の品揃えは5000~6000種で、ずっと少なめだと述べる。アマゾンでは出版も行っているため、自社の本の売り込みも出店の理由ではないかとささやかれているが、特別なセクションも設けられておらず、ウェブサイトでの紙の書籍販売の市場シェアが6割とも推定されるアマゾンにとって、実店舗販売はあまり重視されていないという印象を同紙記者は持ったようだ。

 一方LATは、配達時間短縮のためアグレッシブに配送センターを開設するアマゾンが、実店舗を配送センターの小型版として試しているのかもしれないというアナリストの見方を紹介する。商品を置いて直接買い物客に見てもらうだけでなく、注文された品を店舗から直接送ったり、客からの返品を直接受け付けたりするなど、利便性を高めようとしていると見る業界関係者もいるとのことだ。

 前出のNYTの記者は、人工知能スピーカー『Echo』や『Fire TV』のようなアマゾン製の電子機器が、シアトルの店舗では中核になっていると報告している。これらの機器は、店内のテーブルやスタンドに置かれており、ちょうどアップルストアでiPadに触れるような感じだという。新しく使い慣れないデバイスを紹介する上で、実店舗が有効なことをアマゾンは認識していると専門家は指摘しており、自社機器のショールーム的な意味合いもあるようだ。NYTの記者も、必ずしも今後すべての店舗で書籍にフォーカスされるとは限らないと述べ、アマゾンにとっては実験だとしている。

◆アルゴリズムは情熱に勝てない
 一部ではアマゾンは数百、数千の出店を計画しているという報道もあり、書店は神経質になっているようだが、NYTは、せいぜい十数店に留まるという見方を支持している。ただし、書店の強みである、本との偶然の出会いを提供するという点でアマゾンが追いついて来れば、既存の書店は最大の強みを失うことになると指摘する。

 一方、前出のリスコ氏は、アマゾンは地域に根ざした書店とは戦えないと述べ、客を個人的に知り、心から本に情熱を注ぐ地元の本屋の店主に、アルゴリズムを用いて本を勧めるアマゾンが取って代わることはできないと主張している。

Text by 山川 真智子