ソニー「プレステVR」、ライバルより遅れて発売も勝算十分 価格だけではない強みとは?
ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は16日、「プレイステーション 4」(PS4)専用バーチャル・リアリティー(VR)システムPlayStation VR(PS VR)の発売を正式に発表した。注目の価格は、ライバル機種を大きく下回る4万4980円(税別。北米では399米ドル)に設定された。だが当初、今年上半期とされていた発売時期は、10月に先延ばしとなった。今年はこのPS VRを含め、コンシューマー向けVRヘッドセットの第1世代が相次いで市場に登場し、VR元年になると言われている。PS VRは、価格面での優位を武器に、最初の覇者になれるだろうか。
◆コンシューマー向けVRヘッドセットの発売で、家庭にVRが浸透する?
今年は、VRがいよいよ家庭に普及し始める年になりそうだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、VRはユーザーに没入体験を提供するもので、今後数年間のうちに巨大な市場を生み出すと考えられている、と語る。その応用範囲はゲームをはるかに越えるもので、旅行、ヘルスケア、教育が含まれる、としている。調査会社ガートナーは、2020年までに、世界全体で4000万台近くのVRヘッドセットが販売されると予測しているという。
ソニーのPS VRに先行するのは、今月28日から一般向けの出荷が開始となるオキュラス社のVRヘッドセット「Rift」だ。オキュラス社は2014年、フェイスブックが20億ドルという巨額で買収した。Riftの価格は599ドル、日本から購入の場合は8万3800円(税込み、送料別)となる。送料込みでは9万4600円との情報がある(ITmedia)。また4月前半には、HTC(宏達国際電子)とValveが共同開発した「Vive」が799ドルで発売開始になる。日本から購入の場合は11万1999円(税別、送料込み)になるもようだ。
◆PS VRはライバルに対して価格面での優位が大きい
これら2機種と比べたPS VRの価格面の優位について、ほぼあらゆる海外メディアの記事が言及している。主要なライバル2機種より200ドル以上安く、Viveに比べればほぼ半額だ。
ブルームバーグは、ライバル機種より価格が低いことで、ゲーム開発者、アナリストらが以前より抱いている予想がさらに確実になる、としている。その予想というのは、ライバル機種のほうがより大きな興奮をかき立ててきたが、少なくとも短期的には、実際にはPS VRを買う人のほうが多いだろう、というものだ。
PS VRの価格面の優位は、単体で見た場合にとどまらない。PS4の希望小売価格は、国内では3万4980円(税別)、アメリカでは349.99ドルだ。これに対してRift、Viveの場合、動かすために高性能のWindows PCが必要となる。FTは、一般的に1000ドル(約11万円)以上する高性能のゲームPCが必要だと述べている。
米経済誌フォーブス(電子版)に記事を寄稿したDave Thier氏は、この価格設定が意味するのは、VRを始めようと思っている人がわずか800ドルでそうできるということで、Riftの場合に必要な1500ドル以上とは大違いである、と語っている。
ただし、Thier氏も指摘しているが、実際のVR使用にはPlaystation Cameraが別途必要となる(日本では希望小売価格5980円⦅税別⦆、アメリカでは59.99ドル)。また、一部のゲームでは「PlayStation Move モーションコントローラー」が使用されるが、これも別売りだ。Thier氏は、ソニー(SCE)はこれまでに判明したとおり、低価格のインパクトを得るために、非バンドルにしがちである、と語っている。
◆値段は安くてもVR性能は他に引けを取らない?
SCEは、性能との兼ね合いから、慎重に価格を設定したようだ。同社のアンドリュー・ハウス代表取締役社長兼グローバルCEOはFTのインタビューで、「どんな新技術であれ、その採用を進展させるためには、適切な価格設定が非常に重要だと私たちは固く信じている」と語っている。
調査会社IHSテクノロジーのゲーム部門のトップ、市場調査者のPiers Harding-Rolls氏は、「オキュラスとHTCがそれぞれのヘッドセットの価格設定を発表したとき、ソニーはコンシューマー向けVR市場で早期のリードを得るための、無人のゴール並みの好機を与えられた。その好機をソニーは落ち着いてつかんだ」とFTで語っている。
FTによると、ハウス社長は、ライバルより安くするために質で妥協していないと断言したという。「疑いなく、(RiftやViveが要求するような)非常にハイエンドなPCには、PS4にはないパフォーマンス上のアドバンテージが若干あるだろうが、全体としては引けを取らない体験ができる」と語っている。
Thier氏も、私はここしばらくRiftとPS VRの両方でたくさんのデモを見てきたが、VR体験という面では、両者はかなり肩を並べているように感じた、と語っている。
◆PS4ユーザーという母集団の大きさは普及の助けになりそう
動作プラットフォームがPS4であることには、価格面以外でもメリットがあるようだ。FTは、PS4は最新世代のゲーム機の中では現在最も売れているもので、世界全体の累計販売台数が約3600万台(1月時点)に上ると伝えている。
一方、NVIDIA社によると、RiftやViveを動かすのに必要なグラフィックス性能を持つパソコンは、世界全体で約1300万台しかない(ブルームバーグ)。
さらに、IHSテクノロジーは、2016年年内にPS4の販売台数は5300万台に上ると予想しているという(FT)。対してRiftやViveを動かせるパソコンのほうは、年内に1700万台になると予想しているようだ。
この他、Thier氏は、開発者にとって、PS VRの場合、PS4という固定システムでの作業で得られるメリットがある、と語っている。
◆発売が遅れる影響は?
その他、海外メディアは、発売日が当初の予定より遅れたことにも注目している。発売延期によりライバルに約半年の先行スタートを与えることになるが、SCEは、PS VRの台数を十分に確保し、バラエティ豊かなソフトウエア・タイトルのラインアップをそろえるために10月発売にしたと発表している。
この遅れは、SCEにとって不利となるのだろうか。WSJは、遅れにもかかわらず、アナリストらはソニーに優位を見ている、と語る。野村証券の岡崎優アナリストは、「ソニーは、カジュアル・ユーザーを引きつけるという点では、ライバルよりも良いポジションにいる。今年の年末のホリデーシーズン(感謝祭から新年まで。クリスマス商戦など)までに準備ができている限り、発売時期が問題になるとは思わない」と語っている。
IHSテクノロジーのHarding-Rolls氏は、PS VRの年内の販売台数は160万台になると予測しているという(FT)。