“日本が慰安婦像に神経質なのは「恨」を恐れているから” 移設許せない韓国世論、募る不満
安倍首相と韓日議員連盟の徐清源(ソ・チョンウォン)会長が13日、首相官邸で会談し、慰安婦問題の日韓合意について意見を交わした。安倍首相は「最終的、不可逆的に解決されたことを嬉しく思う。日韓新時代を築く幕開けとしなければならない」と述べ、徐氏は「合意の精神が害されないよう管理していく必要がある」とする朴槿恵(パク・クネ)大統領のメッセージを伝えたと報じられている。
両国政府による昨年末の合意以降、こうした形で日韓関係の雪解けが徐々に進んでいるように見える。しかし、一方で、自民党の桜田義孝元文部科学副大臣が、慰安婦は「職業的な娼婦だった」と発言し、これを韓国政府が強く批判するなど、慰安婦問題を巡る小競り合いが依然続いている。韓国メディアの間でも、合意に応じた朴大統領や日本側に批判的な論調が目立っており、世論は「最終的かつ不可逆的解決」を受け入れているとは言えない状況だ。
◆米識者は約束の履行には懐疑的
米政治コンサルタント会社、テネオ・インテリジェンスのアナリスト、トビアス・ハリス氏と笹川平和財団USAの研究員、ジェフリー・W・ホーナン氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)で、「難しい日韓関係において、およそ考えうる最良の合意だった」と、日韓合意を評価する。特に、以前は「全く謝る必要はない」という態度だった安倍首相が謝罪の言葉を述べたことは、「大きな進展だ」と記す。
しかし、合意の内容ついては、「相手の顔色を伺ったあいまいな表現が目立つ」と、本当に「最終的、不可逆的な解決」になったのか、慎重な見方をしている。はっきりとした強制力や言質に乏しいため、両国政府が約束を履行する保証はなく、「お互いに相手を信じるしかない」と懐疑的だ。また、日韓共に国内で合意に対する不満がくすぶっているとも指摘する。歴史問題を巡る長年の対立により信頼関係が足りていない中で、「韓国の元慰安婦団体」や「日本の歴史修正主義者」は、両国政府が少しでも約束を破る兆候を見せれば「必ず相手を非難するだろう」としている。
その上で、両氏は、両首脳は「日韓関係の改善による恩恵は、慰安婦問題で妥協しただけの価値はあると、世論を説得しなければならない」と主張。また、今月6日の北朝鮮の核実験により、地域安全保障上でも日韓関係の改善がより強く求められる状況になり、米国政府もそれを強く望んでいるとしている。「それは、両国のリーダーが将来に渡って、歴史カードを切ることで政治的な点数稼ぎをする誘惑に抵抗することによってのみ、達成される」と言う。
◆韓国メディア「国民の認識とかけ離れた大統領の自画自賛」
朴大統領は13日の年頭記者会見で、「(政府が)最大限の誠意を持って最上の結果を受け取り、合意に至るべく努力したことは認めてもらいたい」と述べ、「最善を尽くした最上の結果」と、日韓合意を自ら評価した。また、野党の批判については「今になって無効化を主張し政治攻撃の口実としているのは残念」と、“難癖”だと主張した(韓国・ハンギョレ新聞)。
朴大統領は、この記者会見に先立って行われた国民向けの談話では、慰安婦問題に全く触れなかったという。ハンギョレのイ・ジェフン記者は、『「すでに終わったこと」と見て、国民の理解を求める必要はないと考えたか、世論の流れから見て「不利な懸案」であるのであえて先に話す必要はないと判断したようだ』と、皮肉る。加えて、記者会見での発言について、「国民の認識とかけ離れた大統領の自画自賛」と強く批判している。
一方、日本側では、桜田義孝元副文部科学相が14日の自民党国際情報検討委員会で、慰安婦に関して「売春防止法が施行されるまでは職業としての娼婦だった。ビジネスだ。これを犠牲者のように語る宣伝工作に惑わされ過ぎている」と発言し、後に撤回するという騒動が起きている。これに対し、韓国外交部(外務省)は、「歴史の前で恥を知らない一議員の無知な妄言にいちいち答える価値を感じられない」と批判した。ただし、「現時点で重要なのは被害者の心を再度傷つけることがないよう、合意のフォローアップを着実に履行できる環境や雰囲気をつくること」という報道官コメントを通じて、あらためて合意は有効であることを強調した(韓国・聯合ニュース)。
◆彫刻に宿る「恨」のエネルギー
ソウル・日本大使館前の慰安婦像の移転問題も、依然として韓国世論の不満の種になっている。年頭記者会見で、朴大統領が移転を明確に否定しなかったことが、それにさらに火をつけたようだ。ハンギョレのイ記者は「(大統領は)代わりに『政府がああしろこうしろと言えない事案』とか『韓日外交長官の発表、それ以上でも以下でもない』という外交部の曖昧な公式見解を繰り返すだけだった」と、強い不満を漏らしている。会見の場では、移転の有無をただす質問が矢継ぎ早に寄せられたようだ。
朝鮮日報は、慰安婦像に関して、『日本が「少女像」に神経質になる本当の理由とは』と題した記者コラムを掲載した。筆者のクァク・アラム記者は、像を制作した彫刻家夫妻の「元慰安婦のおばあさんたちに対する共感を引き出すよう祈りながら像を作った。2011年12月に現在の位置に像を置き、日本から心のこもった謝罪を受けるという願いを込めて拝んだ」というコメントを紹介。「少女像はもはや作品ではなかった。元慰安婦のおばあさん自身と考えられていた」と、像に寄せる市民の思いを代弁する。
そして、クァク記者は、「土で作った人形が人間の恨みや怒りを原動力として生き物になって動く」という、日本の宮部みゆきの小説『荒神』を引き合いに出し、「少女像の移転問題をめぐり、日本が神経質になっているのは、彼らがこの彫刻の力を誰よりもよく知っているからかもしれない」と推察する。日本人が恐れているのは、「元慰安婦のおばあさんたちの恨(ハン、晴らせない無念の思い)、そしてその恨を晴らしたいという私たち韓国人の願いのエネルギー」だというのだが、「恨のエネルギー」が、今もなお韓国世論にくすぶり続けていることだけは、確かなようだ。