“水爆ではなくとも日本への脅威が増した可能性” 海外メディアが指摘するブースト型とは

 北朝鮮は6日、国営メディアを通じ、自国初の水爆実験に成功したと発表した。金正恩第一書記は昨年12月、水爆の保有を示唆する発言を行っていた。だが、今回観測された地震の規模から、爆発は水爆によるものではないとする見方が、主要海外メディアで一様に示されている。

◆北朝鮮は水爆実験成功を大アピール
 今回、核実験が行われたとすると、同国の核実験はこれで4回目となる。金正恩体制下では、2013年2月以来の2回目となる。インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙(INYT)によると、過去3回の核実験は北朝鮮北東部にある核実験場で行われた。今回、日本や韓国の気象庁は、この付近を震源とする人工地震を観測した。

 北朝鮮で再度、核実験が行われたことについて、海外メディアはそれほど大きな驚きを示していない印象である。ロイターは、4回目の核実験の実施は長い間予想されていたことだが、今回のタイミングは予期せぬものだった、と伝えた。

 INYTは、核実験が再度実施されたこと自体は、それほど驚くべきことではない、とした上で、だがもし水爆だという北朝鮮の主張が事実であれば、今回の核実験はこれまでのものよりはるかに大きな脅威だと語った。

 北朝鮮側は、水爆実験の成功を大いに自賛している。政府声明では、水爆実験の完璧な成功によって北朝鮮は水爆保有国の前列に堂々と立つことになった、と述べている。「正義の水爆」と呼び、今回の実験成功は、歴史の大壮挙、民族史的出来事だと豪語している。

 「水爆実験成功」のニュースが北朝鮮国内で持つ意義について、ブルームバーグは、北朝鮮に水爆を開発する力があると証明すれば、金正恩第一書記が父親の金正日の陰からさらに脱する助けになるだろう、と指摘している。

◆水爆にしては爆発の規模が小さい、前回とあまり変わらない
 各メディアの報道で、今回の核実験によって脅威が著しく増大したとする論調はあまり見られない。というのはやはり、今回の実験は水爆によるものではない、との見方が当初から有力視されていたためだろう。

ブルームバーグは、水爆を爆発させたという北朝鮮の主張は、即座に疑念を招いた、と伝えた。水爆は原爆よりも、数百倍、数千倍の威力を備えうる、と解説する。水爆と原爆とでは、爆発の規模は文字どおり桁違いとなる。ところが、今回観測された地震の規模は、前回2013年の核実験の際の地震の規模とほとんど変わらない。

 ロイターによると、アメリカ内務省・地質調査所は、今回、マグニチュード5.1の地震を観測したと発表した。2013年の時も、同じくマグニチュード5.1だった。

 聯合ニュースによると、韓国の情報機関・国家情報院は、今回の爆発による地震の規模はマグニチュード4.8、爆発の規模はTNT火薬6.0キロトン相当だったと同国の国会議員に説明した。しかし前回の実験時はマグニチュード4.9、7.9キロトン相当だったとのことで、それを下回っている。水爆ならば、爆発規模は数百キロトンに上り、失敗しても数十キロトンになると同院は説明したそうだ。

◆「ブースト型核分裂兵器」だったのではとの推測
 爆発したのが水爆ではないとすれば、北朝鮮は全くの嘘をついたのだろうか。

 多くの専門家は、実験で使用されたのは水爆ではなく、「ブースト型核分裂兵器」だった可能性があると考えているようだ。

「われわれがこれまでに把握しているデータから見て、今回爆発したのは水爆ではなく、せいぜいブースト型核分裂兵器だ。水爆であれば、最低でもTNT火薬50キロトン分の核出力がある」と、カーネギー国際平和財団で核政策を専門とする李彬シニア・アソシエイトはブルームバーグに語っている。

 ブースト型核分裂兵器とはどのようなものだろうか。原爆は、ウランやプルトニウムといった核物質を核分裂させることでエネルギーを発生させる。それに対し、水爆は、水素の同位体(二重水素、三重水素)を核融合させることでエネルギーを発生させる。ただし、核融合には超高温・超高圧の環境を必要とするため、まず原爆を爆発させてその状況を作り出す。

 ブースト型は、韓国国防安全保障フォーラムのヤン・ウク上席研究員がロイターで形容するところによると、「原爆と水爆の中間段階のもの」。また、核問題に取り組む米NGOプラウシェアズ基金のジョセフ・シリンシオーネ理事長は、原爆(のコア)に水素同位体を混ぜたもの、と形容している。これによって、核物質の核分裂の効率が高まる。INYTは、兵器設計者は、原爆のコア(の中央部)に三重水素を少量配置することで、原爆の破壊力を容易に高めることができる、と説明している。

 シリンシオーネ理事長は、「実際、それは水素なので、北朝鮮がそれを水爆だと主張することはできなくはない」「しかしこれは、何百万トンものばく大な核出力を持ちうる真の水爆ではない」とロイターに語っている。

◆今回の核実験によって、日本にとっての脅威は増したかもしれない
 しかし、たとえ水爆ではないにしても、今回の核実験がブースト型核分裂兵器の実現を目指したものだったとすれば、日本やアメリカ、韓国にとって、北朝鮮の核によるリスクが高まったと考えるべき理由はある。

 ブースト型は、核物質を効率的に使用するため、通常の原爆に比べて、同量の核物質で威力を大きくすることができる。あるいは、威力を保ったままで核物質の使用量を抑えることもできる。後者の場合、核爆弾の小型化につながる。北朝鮮は声明で、実験の成功により「小型化された水爆の威力を科学的に解明した」とアピールしている。

 ロイターは、水爆ではないとしても、今回の実験は、北朝鮮の核技術の進展を画するものかもしれない、と語っている。小型化によって兵器として実用化でき、またミサイルに搭載可能となるため、アメリカと、地域の同盟国の日本、韓国にとって新たな脅威となるだろう、と語っている。

Text by 田所秀徳