日本に有利にも? 低効率の石炭火力の輸出規制、反対だった日本などが妥協した背景とは
国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が、30日からパリで開催される。これに先立ち、経済協力開発機構(OECD)加盟34ヶ国が、二酸化炭素排出量の多い石炭火力発電技術輸出への公的な支援を規制することに合意した。当初反対だった日本、韓国、オーストラリアも、最終的に賛成に転じた。温暖化抑制に向け大きな一歩を踏み出したと言えるが、合意内容には賛否もある。
◆反対だった日本
貿易と持続可能な開発のための国際センター(ICTSD)によれば、石炭火力発電への支援規制に関する交渉は、OECD内で2年前から始まっていた。米国輸出入銀行、世界銀行、欧州投資銀行は、すでに石炭プロジェクトへの支援を削減しており、オバマ政権も国際的な融資の形を変えることを数年に渡って求めていた(ブルームバーグ)。
米国の環境グループ、『天然資源保護協議会』の今年6月のレポートによれば、日本は石炭ファイナンスの世界一の支援国。安倍政権は発電所も含めたインフラ輸出を2020年までに3倍にする目標を掲げており、東芝などの国内の技術輸出企業に利益をもたらす援助の削減には賛成できないとし、規制に抵抗してきた(ブルームバーグ)。さらに中国との輸出競争という意味でも懸念を示してきたが、9月になり米中が協力して気候変動と戦うことを表明。「グリーン、低炭素政策を強化し、国内外での高汚染、高炭素排出のプロジェクトへの投資を厳しく制限するつもりだ」という中国の発表が日本へのプレッシャーにもなり、最終的に低効率の石炭火力を規制し、「超超臨界」と呼ばれる高効率発電への公的支援は引き続き認めることで、米国と妥協した(ICTSD)。
丸川環境相は、低効率の石炭火力輸出を規制することは、日本には有利に働くかもしれないと発言。「石炭火力しかコスト的に選択のない国」に、他国より効率のよい日本の技術を提供することで、温暖化ガス排出削減に十分な貢献ができるとブルームバーグに語り、輸出に意欲を見せた。
◆韓、豪のために例外も
日本が折れた後も、抵抗したのが韓国、オーストラリアだ。ハンギョレによれば、2003年から2013年にかけての韓国の石炭発電金融支援額は、OECD加盟国中第1位。インド、チリなどに石炭火力発電所を建設し、「途上国は、安価で豊富なエネルギー源に依存するしかない」と支援縮小に反対していた。石炭輸出国のオーストラリアも、世論の批判を浴びつつも、政権への大口の寄付者である国内の鉱業界に配慮し、反対に回っていた(シドニー・モーニング・ヘラルド紙、以下SMH)。
結局両国をなだめるため、貧しい途上国において小規模の「亜臨界」石炭火力を建設する場合と、人口の10パーセント以上が電気を利用できていない国において中型の石炭火力を建設する場合は規制の対象外とすることが認められ、最終的にOECD内で合意にいたった。
◆合意に一定の評価。でも石炭排除は無理?
今回の合意により、規制は2017年から開始され、計画中の石炭プロジェクトのうちの85%への融資が止められるという。多くの識者や環境団体は、OECDが規制に乗り出したことは、COP21への追い風になると見て評価。一方で、「環境・持続社会」研究センター、気候ネットワーク、環境NGOのFoEジャパンは、「『超超臨界』でさえも、天然ガス発電に比べ、2倍の二酸化炭素を排出する」とし、石炭排除に向けて早期の改定が必要だと、問題点も指摘している(ブルームバーグ)。
アメリカ国立鉱業協会のルーク・ポポビッチ氏は、今回の合意には例外が設けられ、全面規制に至らなかったことに注目。「暗黙のうちに、高度な石炭テクノロジーへの融資継続の大切さが認識された」とし、「オバマ氏は石炭の時代は終わったと思っているかもしれないが、OECDのうち19ヶ国では明らかにそうではないし、オバマ氏が退任したあとも、しばらく新興国が石炭に頼るであろうことはいうまでもない」と述べ、石炭火力はなくならないと主張した。