“安倍政権にとって重要”日本郵政グループのIPOはうまくいくのか?海外の見方とは
郵政民営化の最終的なプロセスとして、日本郵政グループ3社の新規株式公開(IPO)が11月に行われる。新規公開株の7割以上が国内の個人投資家に配分される予定だ。安倍政権にとって、このIPOには政治的意義があると海外メディアが指摘している。IPOの成功には、売り出し価格の設定が重要となると考えられている。7日には、その前提となる仮条件が発表された。
◆今回のIPOの総額は約1.4兆円となる見込み
今回のIPOでは、持ち株会社の日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社につき、それぞれの発行株式総数の11%が売り出される。仮条件の上限価格で試算すると、全体の販売額は1兆4362億円となる。売り出し価格の決定は、ゆうちょ銀とかんぽ生命が19日、日本郵政が26日となる。上場日は3社とも11月4日だ。
このIPOの規模について、ブルームバーグは、1987年のNTT上場以来、(国有企業の)最大の民有化となる、と語っている。またフィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、今年これまでのところ、世界最大のIPOだとしている。
◆国内の個人投資家がターゲット
今回のIPOは、国内の個人投資家を特にターゲットにしている。ロイター(7日)によると、国内販売が8割であり、さらにそのうち95%が個人向けになるという。ブルームバーグ(9月10日)によると、現株主である財務省は、国有財産であることから広く日本国民が保有することを目指している、としているという。
一方、安倍政権には家計の金融資産のうち、現金・預金をより株式投資に向けさせる狙いがある、と多くのメディアが指摘している。日本政府はこのIPOを用いて、株主の新世代を生み出すこと、日本の莫大な貯蓄のプールをより多く投資に転換することを期待している、とFTは語る。またロイターは、東証に燃料を補給するために、家計の貯蓄から株式へシフトさせるという、安倍首相の以前からの望みについて触れている。
今回のIPOの幹事証券会社の1社でもある今村証券の宮田秀夫営業業務部部長は、「新規顧客を獲得するための千載一遇のチャンス」とロイターに語っている。
それと同時に、政府はこのIPOを成功させるために個人投資家を当てにしている、という見解を示す海外メディアも複数ある。FTは、市況が厳しい中でも、日本の個人投資家ならば買ってくれるだろうということで、圧倒的に売り込みの対象となっている、という旨を語っている。ロイターは、中国経済への懸念がアジアの投資家の神経を乱している最中ではあるが、日本政府はこのIPOの成功を促すために、日本で最も有名で、最も安定した企業の1つへの(個人投資家の)信頼を頼りとしている、と語っている。
◆売り出し価格の設定は高すぎても低すぎても駄目
いずれにせよ、今回のIPOの成功には、個人投資家にとって魅力的な取引であることが求められる。そのためには売り出し価格の設定が一つの鍵となる。上場時にもし株価が下落すれば、安倍首相には個人投資家を怒らせる危険がある、とブルームバーグは語る。また3社の株の売り出しは今後も控えているため、投資家の関心を継続させるために、今回、政府は安めの価格を設定する動機もある、としている。
かといって、安すぎる価格に設定すれば、国庫の損失となってしまう。FTは、英郵便会社ロイヤルメールの民有化の事例を紹介している。ロイヤルメールは2013年、ロンドン証券取引所への上場後、すぐに株価が38%上昇したという。このため政府の価格設定が低すぎたとして批判を受けたそうだ。日本の当局者、関係者は、この事案を研究し、教訓を学ぼうとしている、とFTは語る。
◆IPOはうまく行くのか
IPOの成功の見通しについて、海外メディアはどのように伝えているだろうか。
このIPOの60余りの幹事証券会社の大多数は、日本郵政ブランドに対する強い好意、特に地方部での好意により、このIPOは十分受け入れられると確信している、と述べているという(FT)。
ロイターは、「これは長期ポートフォリオの固定需要株になるだろう」との、香港の証券会社パリー・インターナショナル・トレーディングのマネージングディレクター、ギャビン・パリー氏のコメントを伝えている。また、株式仲買人らが、早期の打診では、価格に関係なく強い関心が示唆されると語っているそうだ。今村証券の宮田部長は、問い合わせの件数の多さを考えると、顧客の全需要を満たすのに十分な株は確保できないだろうと心配していると語ったという。
◆海外投資家も引き寄せるには今後の事業戦略が重要か
だが、株は上場してそれで終わりではない。株価は値上がりし続けることが好ましいし、配当利回りも重要だ。
FTによると、海外投資家の反応は、国内の個人投資家ほどではないようだ。アナリストらは、海外投資家に海外販売分の2割を吸収するよう説得するのは、思ったより困難なことかもしれない、と語っているという。
ブルームバーグは、今後の事業戦略が上場の成功には重要だと見ているようだ。上場の成否はビジネス戦略で投資家の購入意欲を引き出せるかに掛かっている、と述べている。
日本郵政グループは、ほとんど貸し付けをすることができない銀行であり、電子メール時代の郵便サービスであり、人口減少と高齢化する国の保険会社である。だとすれば、それがどのようにして投資家を引きつけることができるのか、と問題提起した上で、その答えは、296兆円の預かり資産、2万4000の郵便局、従業員20万人の潜在力を、いかに速やかに引き出せるかにかかっている、とブルームバーグは述べている。(注・郵便サービスは日本郵政の子会社の日本郵便が担当。)
けれども、規制のせいで、その戦略の大部分がまだ不確かなため、7日に発表される3社のIPOの仮条件では、相対的に低めの価格幅を提示しなければならないかもしれない、とブルームバーグは予言していた。