東大、アジア1位から陥落、3位に「日本にとって苦しい時代」英教育専門誌
英教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』の「2015-2016世界大学ランキング」が1日、発表された。5年連続1位のカリフォルニア工科大をはじめアメリカの大学が上位を占め、オックスフォード大(2位)をはじめとするイギリスの大学が続く。日本最高位の東京大は、昨年の23位から43位に大きく順位を落とし、26位のシンガポール国立大にアジア首位の座を明け渡した。
同ランキングは12年目。今年は400校から800校に枠を拡大し、昨年よりも29ヶ国多い70ヶ国の大学がランクインした。調査範囲が広がった中で、引き続き米英の大学が強さを見せているが、この10年で初めてスイスのチューリッヒ工科大がトップ10(9位)に入るなど、非英語圏の大学も健闘している。
米英をはじめ、オーストラリア、カナダ、ロシアのメディアの反応をそれぞれ紹介する。
◆米優勢変わらず欧州勢などが追い上げ
トップ10は次の通り。1位カリフォルニア工科大(米)、2位オックスフォード大(英)、3位スタンフォード大(米)、4位ケンブリッジ大(英)、5位マサチューセッツ工科大(米)、6位ハーバード大(米)、7位プリンストン大(米)、8位インペリアル・カレッジ・ロンドン(英)、9位チューリッヒ工科大(スイス)、10位シカゴ大(米)。
『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』は、今年のランキングを「アメリカの優勢が弱まる傾向は続いているものの、依然としてランキングの5分の1近くを米大学が占めている」と総括。全800校のうち、145校がアメリカの大学だが、トップ200では63校と昨年(74校)、一昨年(77校)から落ちている。同誌エディターのフィル・バティ氏は、今年からランキング調査が拡大したのがアメリカの動きに大きく影響していると見る。同氏によれば、今年は枠を800校に拡大したのに伴い、「英語以外の言語で出された研究の調査力が向上したほか、世論調査の範囲も世界中に広げた」という。一方でバティ氏は、アメリカの大半の州が教育予算を削減している現状を指摘し、アメリカの地位は「もはや安泰ではない」とも述べている。
英教育大学、UCLインスティテュート・オブ・エデュケーションのサイモン・マーギンソン教授は、アメリカの大学の力が落ちているというよりは、相対的に他国の大学が伸びていると指摘する。特に英大学が全体で78校ランクインし、チューリッヒ工科大がトップ10入りしたほか、オランダの大学がトップ200に12校入るなど、ヨーロッパの台頭が著しい。同教授は、「北欧、ベネルクス三国、ドイツ語圏での15年間に渡る強化」が功を奏したと見ているようだ。
◆東大がアジア3位に後退もランクイン数では日本は3位
アジアでは、シンガポール国立大がランキングの12年の歴史で初めてアジアNo.1(26位)になった。これまでアジアのトップに立っていた東京大は、昨年の23位から43位に大きく後退し、中国の北京大(42位)にも抜かれた。『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』は、アジアの動きを「中国のパフォーマンスは堅調で、トップ800に37校、トップ50に2校ランクインした。日本と韓国は共に落とした。日本はトップ200に昨年は5校入っていたが今年は2校のみ、韓国はトップ100に1校(昨年3校)しか入っていない」と総括する。
エディターのバティ氏は、「日本にとっては苦しい時代となった。韓国の失望と合わせて、ランキング高位でのアジアの動きは流動的だ」と語る。ただし、同誌は「日本にはまだ底力がある」とも記す。全800校のランキングには、日本の大学が41校入っているが、ランクインした大学の数では世界第3位となっている。
近年、日本の大学でも盛んにグローバル化が叫ばれている。これについて、バティ氏は「東アジアの大学の多くは、資金や政治力を投入することで、ワールドクラスの地位を獲得することに注力している。しかし、ランキングの結果は、世界中の大学がレベルアップする中で、それがいかに難しいかを示している」と述べ、道のりの厳しさを示唆している。
◆英豪加露のメディアも取り上げる
各国のメディアもこのランキングを取り上げている。英インデペンデント紙は、イギリスは米国に次ぐ2位を堅持しているものの、近年続いている教育予算の削減傾向を懸念。一連の移民受け入れ策も留学生の質の低下につながる可能性があるとして、長期的な影響を心配する。
オーストラリアのフィナンシャル・レビュー紙は、トップ100に6校入るなど、「世界7位」に躍進した自国の大学の健闘ぶりを報道。新たにトップ100に入ったニューサウスウェールズ大学のイアン・ジェイコブス副学長は、「2025年までに世界トップ50に入ろうという我々の努力が、正しい軌道に乗っている証拠だ」と、ランクインを歓迎している。
カナダは、トップ50に入ったトロント大(19位)、ブリティッシュ・コロンビア大(34位)、マギル大(38位)と、トップ50の“御三家”は地位を保ったが、「他は順位をさらに落とした」と全国紙の『グローブ・アンド・メール』が報じている。同紙は、カナダ政府の特に科学分野での基礎研究予算削減を警告する『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』編集者のコメントを紹介している。一方、ロシアは昨年の2校から一気に13校がランクイン(最高位はモスクワ大の161位)。高等教育のレベルアップを目指す国家プロジェクトなどが功を奏したと、『Russia Beyond The Headlines』が伝えている。
◆ランキングの真実性には「要注意」と米紙
一方、ワシントン・ポスト紙のバレリー・シュトラウス記者は、「大学ランキング」自体に懐疑的なコラムを書いている。同コラムによれば、今年だけでも同種のランキングが、他にもサウジアラビア、アメリカ、中国の機関から3種類出ている。その中でも比較的権威が高いとされる『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』のランキングは、「教育・学習環境」「研究成果」「表彰」「収入」「国際色」の5 つの分野について、13種類の指標を元に評価されているが、他のランキングもそれぞれ「我こそは最高権威」だと独自の算出法を誇っているという。これらの基準と算出法が妥当かどうか議論の余地があるうえ、各ランキングの結果も大きく異なる。シュトラウス記者は、「大学ランキングには要注意。非常に注意深く見るべきだ」と述べている。
ちなみに、各ランキングのトップ5は以下の通り。
・『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』=(1)カリフォルニア工科大(2)オックスフォード大(3)スタンフォード大(4)ケンブリッジ大(5)マサチューセッツ工科大
・上海交通大学のランキング=(1)ハーバード大(2)スタンフォード大(3)マサチューセッツ工科大(4)カリフォルニア大バークレー校(5)ケンブリッジ大
・米『U.S News & World Report』=(1)ハーバード大(2)マサチューセッツ工科大(3)カリフォルニア大バークレー校(4)スタンフォード大(5)ケンブリッジ大
・サウジアラビアのコンサルティング団体のランキング=(1)ハーバード大(2)スタンフォード大(3)マサチューセッツ工科大(4)ケンブリッジ大(5)オックスフォード大