ロシア、20日から中国と日本海で軍事演習 極東で急速に経済・軍事プレゼンスを強化
ロシアは8月20から28日まで、中国・北朝鮮との国境付近の日本海で中国との合同軍事演習を行なう。北方領土でのロシア軍事施設建設は加速しており、経済特区を設け、内外の投資を呼び込むという。実効支配を強めながら日本との経済的互恵関係を作り、政治的妥協を日本政府に迫っている。
◆中露、初の日本海合同軍事演習
中露は今年5月、地中海で合同軍事演習を行なった。来年5月には緊張が高まる南シナ海で合同演習を行なう予定だ。また中国は先月、8月20日から28日まで、北朝鮮・中国・ロシアの国境線が接近するチンタオ北部のロシア領ピョートル大帝湾にて、強襲揚陸を想定した中露合同演習を行なうと発表した。
中国側は、この演習は日本が尖閣諸島周辺海域での石油掘削リグ建設に抗議したことや、戦後初めて海外派兵を合法化しようとしていることに対する警告として行うとした上で、「我々は日本のある人々が、彼らのしたことを冷静に反映できるよう望む」と述べた(ロイター7月30日)。
一方ロシアの関係者は新華社の取材に対し、この演習は中露間の年間プログラムの一環であり、「いずれの地域の現状に関わる第三国を想定したものではない」ことを強調。演習が行われる海域は日本の領土から650km離れた公海内であるとも述べ、日本への配慮が伺える。また、ラブロフ外相の談として、「東シナ海・南シナ海、その他のあらゆる海での紛争については、国際法に基づく解決を強く望む」とした上で、南シナ海については「外部からの干渉なしに当事国が直接交渉して解決することを、強く望んでいる」とアメリカとその同盟国を牽制した(ロシア・トゥデイ8月7日)。
◆北方領土に実効支配を強めるロシア
ロシアもこの間、すでに国内紙で報じられている通り、サハリン・千島列島に対する実効支配を強めつつある。ロシア政府は7月23日、2016年から2025年までを計画期間とし、千島列島を対象とする総額700億ルーブル(約1400億円)の社会経済開発プログラムを承認した。「住民生活の向上と経済発展のためにインフラ整備を進め、千島列島の条件に合った最新技術で原材料処理加工できる環境を創出し、社会インフラの近代化を進める」という。(スプートニク8月10日)。この結果、北方領土などの人口を25%増の2万4000人にするという。8月3日には、来年1月から北方領土も含む極東地域の遊休地を1ヘクタール無償分与する法案を議会に提出する方針を発表。さらに8月13日には、トルトネフ副首相が北方領土・択捉島を訪問し、国後・択捉島を対象とする税制優遇などの経済特区創設を急ぐ意向を表明した。
極東開発プログラムを大々的に打ち出し、投資や参画を呼びかける政府主催のイベントも計画されている。9月3日から5日までウラジオストクで行われる「東方フォーラム」である。極東ロシアの将来像やエネルギー・農林漁業・製造業・物流・都市環境・金融の各部門における投資機会、ボリショイ・ウスリースキー島自由貿易港、商業センター、連邦政府が主導する投資メカニズムについてのプレゼンテーションなどが発表され、具体的な商談を行う予定のようだ(同フォーラムHP)。
◆安倍首相のキエフ支援でプーチン大統領訪日は微妙
クリミア問題をめぐるロシアへの経済制裁によって、ロシア経済は変革を迫られている。これまで、石油などのエネルギー資源と武器を輸出して生活必需品を輸入するという構造であったが、制裁の影響により国内製造業、とりわけ中小企業の育成が急務となっている。その拠点として極東開発を進め、中国依存のリスクを減らす上でも、日本からの投資を呼び込みたい思惑があるものと思われる。
しかし、安倍首相が6月にウクライナのキエフを訪問し、ポロシェンコ政権に12億ユーロ(約1650億円)の支援を約束したことに対してロシア政府は不快感を持った、と英ガーディアン紙は指摘する。「これを機に、ショイグ国防相が千島列島への軍事施設建設の加速を指示した」と伝えている(6月9日)。ロシアの国営紙ロシア・ビヨンド・ザ・ヘッドラインズは「なぜロシアは南クリル諸島を日本に返さないか」と題する記事で、特に国後・択捉島の地下資源の豊富さや、対米軍事戦略上の地政学的重要性から、「第二次大戦の戦後処理としての平和条約締結は、トウキョウが妥協しなければ実現しない」と断じる政府姿勢を伝えた(7月11日)。安倍首相のキエフ訪問時に、プーチン大統領訪日日程はいったん白紙になったという。その後の安倍政権の対外姿勢は、プーチン大統領の目にはどう映っているだろうか。