談話報告書:「侵略定義、定まっていない」は屁理屈、お詫びに言及ない…海外指摘

安倍首相

「21世紀構想懇談会」は、「戦後70年談話」に関する報告書を安倍首相に提出した。8月14日に発表される「首相談話」の参考となるだけに、海外メディアは報告書の気になる点を指摘している。

◆侵略を認め、生まれ変わった日本を評価
 懇談会は、16人の学者、ビジネスマン、ジャーナルストで構成されたグループで、日本の20世紀における行いや、戦後に歩んだ道・未来へのビジョンに関して、2月から7回にわたり、議論を続けてきた。

 報告書は、「日本は、満州事変以後、大陸への侵略を拡大し、第一次大戦後の民族自決、戦争違法化、民主化、経済的発展主義という流れから逸脱して、世界の大勢を見失い、無謀な戦争でアジアを中心とする諸国に多くの被害を与えた」と指摘しているが、「先の大戦への痛切な反省に基づき、20紀前半、特に1930年代から40年代前半の姿とは全く異なる国に生まれ変わった」と述べ、戦後日本の平和主義、経済発展、国際貢献を肯定的に評価している。

◆「お詫び」と「侵略」
 海外メディアがまず注目したのは、報告書が「お詫び」について触れなかったことだ。韓国の中央日報は「今回の報告書からみて謝罪には言及しない可能性が高い」と指摘。中国新華社も、歴史修正主義者として有名な首相は、おそらく「心からのお詫び」を避け、「侵略と植民地支配」のようなキーワードを薄め、単に「痛切な反省」を述べるだろう、と不満を露わにしている。

 ブルームバーグは、安倍首相が戦争に対する過去のお詫びは維持するとしながらも、自らの談話でそれを繰り返す必要はない、と以前発言したことを説明。懇談会の座長代理、北岡伸一氏も、お詫びをするかどうかは首相次第と話したことを報じており、やはりお詫びはないと見ているようだ。

 次に注目されたのは、「侵略」の定義だ。報告書では、日本が他国を「侵略」したことを認めているが、以下のような注釈がつけられている。

 複数の委員より、「侵略」という言葉を使用することに異議がある旨、表明があった。理由は、1)国際法上「侵略」の定義が定まっていないこと、2)歴史的に考察しても、満州事変以後を「侵略」と断定する事に異論があること、3)他国が同様の行為を実施していた中、日本の行為だけを「侵略」と断定することに抵抗があるからである。

 ロイターはこの注釈が、「侵略」という言葉に屁理屈をつけたと表現。中央日報、新華社は、安倍首相が侵略の定義は定まっていないと述べたことが影響していると見ており、談話で「侵略」がどのように表現されるのか、気になるところだ。

◆中国、韓国との和解
 報告書は、韓国、中国との和解はまだ達成されていないと指摘し、両国との戦後70年を振り返り、今後成すべきことを提言している。

 ブルームバーグは、日本が戦時の行為に対して誠実さを見せるまで首脳会談を拒む、と韓国の朴槿惠大統領が報告書の中で批判されているとし、ロイターも、朴大統領は心情を前面に出して厳しい対日姿勢を持つ、と批判されていると指摘した。

 中央日報は、「韓国政府が歴史認識問題において『ゴールポスト』を動かしてきた」という報告書の記載に言及。慰安婦問題などで、韓国政府の立場が状況によって変わることを指摘したとみられ、「韓日関係に好循環的な発展を図ろうとする政府の意志に逆行する」という韓国外交部のコメントを報じている。

 一方中国に対しては、昨年11月以降の2回の会談が影響してか、「歴史問題はなお二国間の大きな懸案として存在するが、現在の習近平国家主席も日中の戦略的互恵関係の継続を明言している」と、より穏やかな表現になっているとロイターは述べている。

◆談話が日本人の気持ちのすべてではない
 ピッツバーグ大学教授、橋本明子氏は、『East Asia Forum』に寄稿し、日本を戦争の道に進ませ、日米安保を固めた岸信介の孫である安倍首相の談話を、日本の国民感情を完全に代表するものと考えるのは間違いだと主張。歴史の問題は、戦時の日本を支配したエリート家系のレガシーよりずっと大きく複雑で、普通の日本人にもまた、親から子や孫に伝えられた悲惨な戦争の記憶があると指摘し、それらが反軍国主義や平和憲法擁護のルーツでもあると述べる。

 安倍談話が注目される中、過去に対する日本の姿勢を構成する、多数の感情や意見を見失うことはたやすいという同氏は、日本社会にある、より幅広い戦争の記憶を近隣国に伝えていくことが、日本にとっての今後のチャレンジであると述べている。

Text by 山川 真智子