李登輝氏訪日「尖閣は日本領」、安保法案も評価 中国、台湾が声明で批判

 台湾の元総統、李登輝氏が、19日から25日まで日本を訪問した。来日中の会見で「尖閣は日本領」という見解を示し、自国の政治家から批判を受けた。また、李氏は台湾独立の立場を明確にしており、中国は氏の入国を許可した日本に反発。「一つの中国」の再確認を求めた。

◆民主主義を求め、安倍首相を評価
 台湾の通信社、中央社のサイト「Focus Taiwan」の英文記事によれば、92歳の李登輝氏は、22日に開かれた「李登輝先生の公演を実現する国会議員の会」主催の講演会で、「残された時間は推定約5年」、「台湾がより成熟した民主主義社会となる手助けに、残りの人生を捧げたい」と話した。李氏は台湾の民主化、自由化、憲法改正について語り、非公開で行われた日本の政治家たちとの質疑応答では、アベノミクスや安倍首相の安保法案成立への努力を評価したという(Focus Taiwan 1)

 李氏の訪日を受けて、中国外交部の報道官は、日本が李氏の訪日および台湾分離派の活動への手助けをしたと批判。日中共同宣言を含む日中間の合意における原則に従い、中国とのその堅い約束を果たすことを日本に求めるとともに、「一つの中国」という方針を忘れず、台湾に関連する問題は慎重かつ適切な態度で対応し、日中間の新たな政治的障壁を作ることを慎むべきだと述べた(新華社)。

◆李氏が尖閣問題について大胆発言
 台湾のメディアが注目したのは、23日の日本外国特派員協会での記者会見で、李氏は「尖閣諸島は日本領で、台湾領ではない」と発言したことだ。敢えて台湾で使われている「釣魚台列島」という呼称を使わず、「尖閣諸島」と日本式に呼んだこともいくつかのメディアが報じた(台北タイムズ1)。

 台湾総督府の陳以信報道官は、釣魚台列島は、台湾が福建省の1県として清朝に編入された「1683年以来、台湾固有の領土だ」と説明し、議論の余地なく台湾領だと述べている。珍氏は、日本での李氏の発言を「国家を辱しめ、その主権をはく奪する行為だ」と批判。台湾外交部も「台湾の立場からそれたどのような発言も、(釣魚台)列島への主権の主張に影響をあたえない」との声明を発表し、台湾国民党の報道官も遺憾の意を表している(台北タイムズ1)。

 李氏は、以前から繰り返し、尖閣はずっと沖縄に属してきたと主張している。自国からの批判に対し、「歴史が示すまま」にこの問題を捉えたまでだと述べ、馬英九総統はもっと勉強して、自分が理解していない物事へのコメントは慎むべきだと反論している(台北タイムズ2)。

 中台両政府の李氏批判に対し、元台湾駐日代表の許世楷氏は、「李氏が総督府を去ってからもう15年以上が経った。普通の市民として、彼の海外訪問に制約が加えられるべきではない」と主張。また、民主主義、相互尊重、法の支配の価値観を擁護した李氏の訪日に対する馬政権、国民党、中国の反応は、現代において普遍的に取り入れられる価値への理解を欠く表れだと指摘。国民党と中国は、18世紀に遡る愛国主義にいまだに執着しているとした(台北タイムズ2)。

◆いまだ強い影響力
「Focus Taiwan」は、李氏が23日に安倍首相と面会し、中国が話題に上ったようだというテレビ東京のニュースを報じた。もっとも、安倍首相との会談があったかどうかという質問に対しては、李氏はノーコメントと返答。安倍首相からの招待で訪日したのかという問いにも、「ノー」と答えたらしい(Focus Taiwan 2)。

 今回民間人として訪日した李氏だったが、日本を支持し、台湾独立を求める元総統の発言は、意見を異にするものを刺激するには充分であったようだ。帰国した李氏は、空港でさっそく、「釣魚台は台湾領」と叫ぶ団体からの抗議の声で迎えられている(中央社Focus Taiwan 3)。

Text by 山川 真智子