「おもてなし」が原因?日本の飲食・宿泊業の生産性、米国の4分の1 客の要求水準高く
OECDのデータによると、日本の時間当たり生産性は30年近く、G7中最低となっている。人口が縮小するなか、さらなる生産性の低下が予想されており、その対策として安倍首相は「生産性革命」を掲げた。GDPの約7割を占めながら生産性が顕著に低いサービス産業の生産性を、IT技術などを用いて向上させるというものだ。
そんななかで、複数の海外メディアが日本の生産性ついて論評している。ブルームバーグは「おもてなし」の精神が生産性の足かせになっているという主張を行っている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は安倍首相が提唱する「生産性革命」を疑問視する記事を掲載。ワシントン・ポスト紙は、少子高齢化で低下する生産性などがイノベーションの糧になるのでは、と述べている。
◆高いホスピタリティを収益化すべき
2013年のIOC総会で行われた、東京オリンピック招致のための最終プレゼンテーションで一番注目を集めたのは、滝川クリステル氏が言及した「おもてなし」の精神だろう。2020年に開催される東京オリンピックを見据え、この「おもてなし」の精神で外国人観光客を呼び込もうという機運がますます盛り上がっている。ブルームバーグは、この精神が日本の生産性向上を阻害しているのではないか、と指摘している。
ブルームバーグの主張はこうだ。「おもてなし」には時間も努力も必要ながら、日本ではその高いサービスに対して、客が対価を支払うことも、サービス従事者がそれを受け取ることもよしとしない文化がある。つまり高いサービスに対して経済的な還元性が低い、ということであり、実際、レストランやホテルでの生産性がアメリカの26.5%とかなり低い数字として出ている。
高いホスピタリティで利益が上がっている日本で唯一の分野である観光業で、「高い質を維持しながら、このホスピタリティを収益化できるかが試練だ」とブルームバーグは提言している。
◆中小企業の生産性向上がカギ
WSJ紙は、安倍首相が打ち出した、中小企業での「生産性革命」を柱とした「日本再興戦略」を、「大がかりなステップは1つもない」として否定的な見方を示した。「日本再興戦略」は、アベノミクスの3本目の矢「成長戦略」の一環として提示されたものだ。
WSJ紙は、クレディ・スイスのエコノミスト塩野剛志氏の「打ち出された方策の中でGDPに大きく影響を与えるようなものはない」といった発言や、OECD経済局日本韓国課長ランダル・ジョーンズ氏の「70%(サービス産業)が成長しなければ、経済を向上させるのは難しい」という発言を引用している。
前述のブルームバーグの記事は、サービス産業は小規模なビジネスが多く、ITなどの新技術導入の資金投入が難しいケースが多い、と指摘している。
◆逆境をイノベーションの機会に
ワシントン・ポスト(WP)紙は、少子高齢化や不況といった悪条件を抱える今の日本だからこそ、イノベーションの余地があると鼓舞している。
日本は、平均年齢が46歳であり人口の4分の1が65歳以上という、世界で最も高齢化した社会となっている。WP紙は、このことが生産性の低下、斬新なアイデアを生み出す力の減少を招いていると指摘する。また、20年にわたる不況でイノベーションに投資する余力を失っていることや、島国という地理的条件下で国内需要に特化した製品・サービスを展開させてきたことも、イノベーション力の低下につながり、世界的なヒットを生み出せていないと指摘する。
しかしながら、WP紙は、こういった状況が逆に創意工夫への「機会」になっていると述べる。高齢化社会への、社会・政治・テクノロジーすべてを含む総括的な施策は、同じく高齢化社会の道を歩む先進諸国の先鞭となるだろうとする。また、すでに先端を走る日本のロボット技術の活用が、世界的な解決策を生み出すことができるのでは、と期待を寄せる。
また、エネルギー資源の94%を輸入に頼る日本では、再生エネルギー分野の技術革新によるコスト低減が大きく期待されている。2050年まで世界で最もダイナミックに飛躍する地域と目されているアジアで高い人気を誇る日本が、今まで培ってきたインフラ整備やイノベーションの分野で力を発揮できるのでは、とWP紙は述べている。