「戦勝70年」中国が愛国プロパガンダ開始 “戦ったのは国民党”と台湾メディアら

 日中戦争の発端となった盧溝橋事件から78年を迎えた7日、北京市郊外・盧溝橋のそばにある「中国人民抗日戦争記念館」で、大型展示「偉大な勝利 歴史的貢献」が始まり、その開幕式が行われた。中国ではこれを皮切りとして、今後数ヶ月間、「戦勝70年」を記念した多数の行事が行われる。AP通信、ロイターはこれを、愛国心をかき立てるための宣伝キャンペーンだとしている。

◆中国共産党が戦争の勝利に果たした役割を強調する目的
 展示は、日本軍の残虐行為を示す写真や、日本軍兵士が使用したとされる武器など、合わせて4000点以上からなる。開幕式に習近平国家主席は出席しなかったが、習主席を含め、中国の最高指導部である中国共産党中央政治局常務委員会の委員7人全員が、この日、記念館を訪れた。

 AP通信は、全体の背景として、中国共産党指導部は、日本との戦いで党が果たした役割を強調したがっている、と説明する。党序列5位、宣伝部門担当の劉雲山・政治局常務委員は、開幕式で、この展示は「抗日戦争における全ての中国人民の勇敢さと、中国共産党が果たした重大な役割をはっきり示すもの」だと語ったという。

 また劉委員は、この展示は「愛国教育のためのすばらしい機会になる」とも語っている(AP通信)。ロイターによると、劉委員は、「われわれは、役人と国民が過去の厳しい苦闘から支えを引き出すよう導くために、この教育の機会を用いなければならない」と語った。併せて考えれば、愛国とはすなわち、中国共産党が統治する国を愛することであり、党による統治を是認することにつながるだろう。

◆ショッキングな体験を通じて、幼いうちから党への信頼を醸成する?
「教育」は、子供たちもターゲットにしているようだ。開幕式には、現役兵士や、旧兵士の遺族らとともに、多数の児童が参列したことが、報道写真とともに伝えられている(新華社通信など)。

 ロイターが語るように、この展示は「戦争の惨事」を強調するもの。子供にとっては衝撃的なものだろう。中央日報によると、12歳の少女がこの展示で、多くの死体が写っている写真を目にして驚き、「お母さん、あれは本当に人の頭なの?」と母親に尋ねたが、母は答えられず、娘の目を手で覆ったという。

◆映画やドラマ、アニメなど、さまざまな表現方法で「戦勝記念」
 愛国心をかき立てるためのプロパガンダは、この先ますます激しくなりそうである。ロイターによると、当局者が6日、中国は「戦勝70周年」を、映画、コンサート、公演、展覧会の連続によって記念する計画だ、と語ったという。

 中国政府は今後3ヶ月にわたって、(抗日戦争に関連した)ドキュメンタリー番組20本、テレビドラマ12本、アニメ3本を公開するという(ロイター)。AP通信によると、戦争をテーマとしたコンサート、オペラその他の舞台が、今後2ヶ月間で183本上演されるという。ロイターによると、それには、劇、ミュージカル、子供向けショーが含まれるようだ。

 作品の多くは、抗日戦争における中国共産党の尽力を強調したものとなるだろう、とロイターは語っている。

◆中国側兵士の犠牲者の9割は国民党軍兵士だったとの推定
 抗日戦争で、中国共産党が主要な役割を果たしたという中国共産党側の主張に対し、台湾の中国国民党からは異議の声が上がっている。AP通信によると、国民党は「日本との戦闘において、中国共産党は副次的な役割しか果たさなかった」と主張している。台湾の馬英九総統は、戦闘を主導したのは蒋介石であり、「その事実をゆがめることは誰にも許されない」と語ったという。

 台湾紙『中国時報』の英語サイト『ウォント・チャイナ・タイムズ』(WCT)は、中国本土で教えられる歴史では、毛沢東率いる共産党の、レジスタンス闘争への貢献が強調され、国民党軍の貢献は軽視されている、と伝えている。

 フィナンシャル・タイムズ(FT)紙のブログでは、同紙の北京支局、ワシントン支局の元支局長で、現在、米シンクタンク、ウイルソン・センターの米中関係キッシンジャー研究所の研究員を務めるリチャード・マグレガー氏が、「中国共産党は、自分たちが勝利したわけではない戦争の勝利を祝おうというのか」との論争があると伝えている。AP通信が伝えるように、日本が降伏したのは中華民国に対してだった。現在の中国は、中華民国すなわち台湾も自国の一部だと主張している。

 ハーバード大学の中国研究のウィリアム・カービー教授が7日、台北で開かれた国際シンポジウムで、戦争中に犠牲になった中国側兵士の9割は国民党軍の兵士だったと語ったとWCTは伝えている。マグレガー氏もまた、スタンフォード大学のアンドリュー・ウォルダー教授の著書からの引用として、同じ推計を伝えている。

 カービー教授は、「中国共産党の歴史の献立と、安っぽい反日ドラマの食事を与えられて」育った中国の若者は、日本軍と闘い、日本軍が降伏した相手は国民党だったという基本的で明白な事実を知らないかもしれない、とほのめかした、とWCTは伝えている。

Text by 田所秀徳