中国、9月に抗日勝利パレード開催 欧米に戦勝国アピール 台湾の元国民党軍人も招待

 中国共産党と人民解放軍は23日、「抗日戦争勝利記念日」と定める9月3日に、天安門広場で軍事パレードを行うと正式に発表した。習近平政権になってからは初の軍事パレードで、大規模なものとなるもようだ。これまでのものとは異なる面も多いこのパレード、中国の狙いはどこにあるのか。

◆「戦勝70周年」を強力に印象付けようとする習近平政権
 中国共産党政権下の中国では、これまでに14回、軍事パレードが行われているが、そのいずれも建国記念日である10月1日の国慶節の際に行われている(NHK)。「抗日戦勝記念」としてパレードが行われるのは、15回目の今年が初となる。

 今年は「抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年」に当たるとして、中国はさまざまな記念行事を予定している。また、それらの行事への国民の参加を促すため、今年から9月3日を国の祝日と定めた。

 天安門広場の式典では、習近平国家主席が演説を行う。式典には、第2次世界大戦の関係国の首脳が招かれている。パレードには、中国人民解放軍の各部隊や、退役軍人、戦没者の遺族などが参加するほか、他国軍にも参加を呼びかけている。ロイター(25日付)によると、現在のところ、ロシア軍とモンゴル軍が参加を表明している。

 パレードに参加する中国軍部隊は全て、北京の訓練基地や周辺の空港に集められ、3ヶ月に及ぶ練習を開始している。軍総参謀部作戦部副部長にしてパレードの運営委員会の副主任の曲叡少将が23日の記者会見で語った、と中国国営新華社通信およびインターナショナル・ニューヨーク・タイムズ(INYT)紙のブログ「サイノスフィア」が伝えた。

 NHK、産経ニュースによると、北京郊外の軍施設に、天安門の実物大模型が建てられ、さらにその前には70メートル幅の舗装道路が3キロにわたって造られたという。部隊はそこで練習を行っているとみられる。中国がどれほどこのパレードに力を入れているかがうかがえる。

◆中国がここまでする軍事パレードの狙いとは?
 中国がここまでする軍事パレードの狙いについては、「戦勝国」としての地位をアピールするためだと指摘する国内外メディアが多い。

 中国共産党、人民解放軍には、中国が「抗日戦争」を通じて、第2次世界大戦の連合国側の勝利に貢献したことが、十分に評価されていないとの不満がある。23日の記者会見で、党中央宣伝部の王世明・副部長は、欧米諸国の中には、第2次世界大戦で中国が果たした役割を軽視している国もある、とした。それらの国には「客観性と、中国の(当時の)情勢と(果たした)役割への感謝が欠けている」と語ったという(新華社)。新華社は、中国が払った大きな犠牲と、日本軍に対する戦果を強調している。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙のブログ「中国リアルタイム」は、中国がパレードによって、これらの点についての国際社会の認識を改めようとしていることに注目している。

 曲少将は、「われわれはこの軍事パレードを通じて、過去と未来が結ばれることを望んでいる」と記者会見で語っている(新華社)。また新華社は、欧米諸国は、偏見を捨てて反ファシズムで協力して戦った大戦当時とまさに同じように、多角的な国際社会を促進することが望まれる、としている。過去の貢献を強調することによって、現代の国際社会で、中国が列強の一角を占めていることをアピールする狙いがうかがえる。

◆中国軍の中国製新型兵器を誇示する狙いも
 また中国には、パレードを通じて、今の中国が保有する軍備の質を誇示するという狙いもある。曲少将は記者会見で、パレードの目的の一つとして、「現代的な国防力の構築における、わが軍の最新の達成を示すこと」を挙げている(新華社)。

 軍事パレードでは、現在配備されている中国製の新型主力兵器などが展示される。その多くは初披露となるという。この点に注目したブルームバーグによると、中国人民解放軍はこのパレードを利用して、軍が推進している近代化を強調するつもりだという。米国防総省は先月、中国の軍備近代化について「米軍の技術的な優位性を低下させる可能性がある」、と発表している。

 またブルームバーグは、ストックホルム国際平和研究所のデータとして、中国は2010~14年期で、アメリカとロシアに次ぐ世界3位の武器輸出国となったことを伝えている。

◆「抗日戦争」の主力だった国民党軍の退役軍人も招待
 新華社の報道を見るかぎり、中国はこの軍事パレードに他国軍を招待していることをしきりに強調している。曲少将は、「他国軍に招待が出されていることが示しているのは、中国は世界平和を守りたいと望んでいるということだ」と語ったというが、どういう論旨かは不明だ。

 中国は、台湾の元国民党軍の退役軍人も招待している。23日の記者会見でその参加が発表された。台湾と中国の間のいきさつを考えると、これはやはり興味を引く問題で、ロイター(24日付)は特に注目して報じている。

 ロイターは、中国を統治する共産党は自分たちの対日抗争を人々に思い出させる機会を決して逃さないが、実際の戦闘の多くは、蒋介石の国民党政府軍によってなされた、と指摘。INYT紙も、国民党軍が日本の侵略に対抗する闘争の主力を担った、と語る。

 終戦後、中国で国民党と共産党の内戦が再開し、日本軍との戦闘で消耗していた国民党軍は共産党軍に敗れた。蒋介石ら国民党は台湾に逃れ、そこで中華民国を設立した。中華人民共和国はこれを認めず、台湾も自国の一部であるとの立場を堅持している。INYT紙は、中国政府は近年になってようやく、抗日戦争における国民党軍の貢献を認めるようになった、と語っている。

 中国の台湾担当部局である国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は、「抗日戦争での勝利は、国全体にとって大きな勝利」であり、「新たな歴史状況の下、台湾海峡の両側の同胞は、一緒にその勝利を思い出すべきだ」と語ったと、新華社の報道をロイターは引用している。「一つの中国」の連帯感を高めようとしているようだ。

 中国社会科学院の歴史学者Yu Pei氏は新華社に、「パレードに国民党軍が参加することが示しているのは、中国共産党は歴史を尊重し、歴史を(改変せずに)保護しているということだ。勝利を確かなものにするために国民党軍がなした貢献を、党は完全に認めている」と語っている。

 今の中国には、それを認めるだけの余裕ができたということかもしれない。また、中国の貢献をアピールするには、国民党の存在を無視することは不可能だと察したためかもしれない。

Text by 田所秀徳