安倍首相 米議会演説、現地メディアはTPP問題に注目 “反対派を説得しようとした”と指摘

 安倍首相は29日、米議会の上下両院合同会議で演説を行った。日本の総理大臣が合同会議で演説を行ったのは初めてだ。「希望の同盟へ」という題名で、日米の過去を振り返りつつ、今後の協力のあり方を、米議会、米国民に対して提示した。その中の、先の大戦に対する「痛切な反省」というキーワードが、国内主要メディアの見出しで一斉に取り上げられた。一方、米主要メディアでは、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を主題的に報じた報道も多く見られた。

◆安倍首相の演説中、米国内での関心が高かったのはTPP問題?
 もちろん、安倍首相は謝罪を表明しなかった、という点を中心に報じた欧米メディアも多かった。しかし米国内メディアに関していえば、TPPを中心に報じた記事が、少なくとも同程度には見られた。米国の国益に直結する問題だけに、米国内での関心が高いようだ。

 見出しには「TPP」「貿易協定」というキーワードが多い。例を挙げれば、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、安倍首相が議会演説で、TPPへの支持を求めて論を張る、とした。USAトゥデイ紙のある記事は、首相が演説でTPPへの支持を熱心に説く、CNNは、首相が演説でTPPと強い日本を売り込む、とした。

◆日米両首脳はともにTPPを積極的にアピール
「日本と米国がリードし、生い立ちの異なるアジア太平洋諸国に、いかなる国の恣意的な思惑にも左右されない、フェアで、ダイナミックで、持続可能な市場をつくりあげなければなりません」と、安倍首相は演説で語った。USAトゥデイ紙はこれを、中国にあてつけた発言と評した。

 CNNは、安倍首相は歴史に残る米議会演説で、アジアの安全保障と世界の外交に、日本がより深く関与するという、自身の描く未来図を開陳した、と伝える。そして、日本の役割拡大の上で一つの要となるTPPを懸命に売り込んだ、としている。

「しかもTPPには、単なる経済的利益を超えた、長期的な、安全保障上の大きな意義があることを、忘れてはなりません」と首相は語った。これについて「安倍首相は正しい――TPPは経済的利益をはるかに超えるものです」と、米下院歳入委員会貿易小委員会委員長、パット・ティベリ共和党下院議員が語ったとWSJ紙は伝える。

 レガシー作りを考慮する日米両首脳にとって、TPPの重要性は増しつつある、とニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は語る(安倍首相までレガシー作り、という主張はいささか珍しい)。USAトゥデイ紙は、TPPは輸出を拡大し、雇用を創出すると両首脳が主張している、と語る。

◆TPP問題のため、米議会は大きく割れている
 NYT紙は、しかし、TPP承認への障害はますます頑強になっているように見える、としている。

 米議会は、TPPを支持するかどうかで、大きく意見が割れている、という旨をWSJ紙は伝えている。NYT紙は、オバマ大統領に貿易促進権限(TPA)を認めるかどうかで、米議会は大きく意見が割れている、としている。TPAは、大統領(米政府)がTPP交渉にあたる上で、決定的に重要と見なされている権限だ。

 WSJ紙は、現在、米議会に提出されているTPA法案が可決されれば、年内にもTPP締結の道が開けるが、下院の民主党議員の間では支持者が少なく、成立の見通しは不透明なままだ、としている。

 共和党議員の賛成票だけでは、TPA法案を通過させることができないだろう、と下院の共和党院内幹事であり、党内の票の取りまとめを担当するスティーブ・スカリス下院議員が、29日にほのめかしたとNYT紙は伝える。「民主党議員の票を取り込む政府の努力は、十分なものではない」と議員は語ったという。同紙は、民主党議員の大部分は、TPAを自党の大統領に認めることに、断固として反対している、と伝える。

 議会内の分断の目に見えて分かる例として、安倍首相の演説の際、議場の一方に集まった共和党議員の大半は、首相のTPP締結についての発言を拍手をもって迎えたが、ほぼすべての民主党議員は拍手を控えた、とWSJ紙は伝えている。

◆演説の効果やいかに
 そこで、安倍首相にとって、今回の演説は、民主党議員を中心とするTPP・TPA反対派を説得する意図があった、というのが米メディアの分析だ。演説での首相の主張は、オバマ大統領が、TPPに疑いを抱いている民主党議員に対して行ったものの忠実な写しだった、とCNNは語る。

 しかしNYT紙は、首相はTPPに疑いを抱いている議員らに、TPPを支持するよう訴えた際、具体的な譲歩案は何ら提示しなかった、と伝える。そうはせず、TPPが地域の安全と繁栄に対して持つ意義を訴えることに、すっかり頼っていた、と首相の意図を解読している。

 演説の効果のほどは、いかほどだったのだろうか。NYT紙は、今回の演説によって、議会は、安倍首相が議場に入る前の、意見が割れた状況から変わらなかった、と評した。けれども、ティベリ下院議員は、安倍首相が演説で、地政学的問題と日米同盟を強調したことは、政治的に賢明だったとしている。首相がこのような公の場で譲歩を提示することは、特に、議会がTPAを通過させる前では、期待できることではなかった、と議員は語っている。

 安倍首相の演説が、TPPに疑いを持っている人たちに、TPPをもっと好意的に見るよう説得する上で、大きな効果を持ったかどうかは不確かだ、とWSJ紙は評する。米議会にTPPを売り込む、というのは「結局のところ、安倍首相の任務ではありません。大統領の任務です」と、ジョン・デレーニー民主党下院議員が語ったと、WSJ紙は伝えている。

Text by NewSphere 編集部