日本の10倍!? 中国企業、インドネシアに約8兆円投資表明 しかし現地報道は懐疑的
中国のニュースを中心に伝えるサイト『新華ニュース』が配信した記事に、大変興味深いものがあった。それは、先月行われたインドネシアのジョコ・ウィドド大統領の日中表敬訪問において、中国企業が684億4000万ドルもの投資を約束したというのだ。
◆日本の10倍以上
これが本当だとしたら、まさに驚愕すべき事実である。というのも、日本の大企業の経営者たちがジョコ氏に約束した追加投資の総額は56億ドルに過ぎないからだ。中国企業と投資家は、その10倍以上もの出資を行うという新華ニュースの報道である。
しかも同メディアは、その裏付けとしてインドネシア投資調整庁(BKPM)のフランキー・シバラニ長官の言葉を掲載している。
「『今回の(ジョコ氏の)訪問を通じ、インドネシアは中国から日本より多い投資を獲得する』と語った。」
結論から言えば、新華ニュースのこの報道は事実である。インドネシアの現地メディアを見ても、投資額の数字に多少の差異はあるものの中国側企業が日本側企業を圧倒的に上回る投資を計画していると報じている。
だが、この話には続きがある。そしてその部分は、新華ニュースの記事からどういうわけか省かれている。
◆計画と現実の差異
BKPM長官のフランキー・シバラニ氏は、この話題について新華ニュースが書いている以上に多く言及している。現地テレビ局のメトロTVは、「BKPMはここ10年間の中国からの投資について、その計画投資額は約240億ドルに上るものの、結果的に実施された出資は18億ドルに過ぎなかったとコメントした」と伝える。
なんと、中国企業によるインドネシア投資は計画の10パーセントも実施されていないというのだ。全国紙トリブンの記事では、その様子がさらに細かく書かれている。
「昨年10月から今年3月にかけての中国からの計画投資額は、総額にして約140億ドルに達する。これは前年の同じ時期と比較すると、26億ドルもの投資の増加だ。にもかからわず、シバラニ氏によると実際にインドネシアへの投資が実行された額は、計画の僅か7パーセントに過ぎないという」
メトロTVとトリブンの記事を対比させると、計画投資額の点で食い違いがある。これは恐らく、数字の基準にしている投資分野の違いだろう。だが中国資本のインドネシア投資には、計画と実施で大きな落差があるという見解は変わりない。
なぜ、そのような現象が起こるのか。記事を総括すると、原因は「中国側の知識不足」ということになる。シバラニ氏は、中国側企業はインドネシアという国のポテンシャルを把握していない面があり、それ故に現地での合弁パートナー探しに苦労していると語る。しかも決して単純ではないインドネシアへの投資手続きに途中でうんざりしてしまい、最終的に当初の計画をうやむやにしたままドロップアウトしてしまうとも指摘した。
余談だが、現地の両メディアは「中国企業が当初の計画を反故にする」と、やや厳しい表現で書いている。
◆「華人都市」と日本企業
ところで、インドネシアの首都ジャカルタは華人の多い都市として知られている。にもかかわらず、中国企業が現地でのパートナー探しに苦戦するというのは不思議に感じてしまうかもしれない。だが今現在のインドネシアの華人は、そのルーツに誇りを持ちつつも「自分はインドネシア人」という意識もしっかり抱いている。「華人は中国の手先」と本気で考えているのは、インドネシアでも極右思想にかぶれたネットユーザーだけだ。
現在のジャカルタ州知事は、華人のバスキ・プルナマ氏である。前知事ジョコ氏の大統領就任に伴い副知事から昇格した人物だが、日系企業によるインフラ関連投資については度々好意的なコメントを出している。例えばジャカルタで建設が進められている地下鉄の車両は、住友商事と日本車輌が製造を手がけることとなったが、その際、プルナマ氏は、現地メディアのポスコタニュースに次のようにコメントしている。「私は何も、日本びいきというわけではない。だが私は、数十年ないし百数十年という時間をかけて試験されてきたものを信用する」
この言葉一つ取っても、プルナマ氏の日本企業に対する信頼が表れている。ジャカルタの投資環境は、中国企業よりも日本企業にフィットしているのではという一面すらも覗かせている。
いずれにせよ、計画投資額では計れないインドネシアビジネスの真実が、現地メディアには書かれている。