米メディア“同性婚認める憲法改正は?” 渋谷区の同性カップル条例受け、政府の動きに注目
東京の渋谷区議会は3月31日、同性のカップルに対して「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行する条例を可決・成立させた。日本国内の自治体としては初めてだ。条例は、証明書を持つ同性カップルを夫婦と同等に扱うよう、不動産業者や病院に求めるもの。この条例には法的拘束力はないが、違反者に対し、区は是正勧告をしたうえで事業者名などを公表する方針だ。
桑原敏武区長は3月23日、法案の提出に関して、性の多様性を肯定的に受け入れるために重要だ、としていた。
◆渋谷区の動きに国は否定的
同性のパートナーシップ関係を認める機運は高まりつつある、と報じるのはブルームバーグだ。実際、世田谷区、横浜市、兵庫県宝塚市など他の自治体も、同様の条例制定を検討しているようだ。毎日新聞の3月の調査では、返答した44%が同性婚に賛成、39%が反対だった。この数字から、世論は同性婚について、好意を持って受け入れているとブルームバーグはみている。
しかしながら、日本政府や与党自民党はこの動きに慎重だ。ブルームバーグは、これを批判的な論調で報じている。安倍晋三首相は2月、「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」という憲法24条を引き合いに出し、同性婚に消極的な自身の立場を説明した。また、保守的な自民党議員らは、渋谷区の条例に対し、国による法的な裏書きがないのは、混乱を生じる恐れがあると懸念を示している(ブルームバーグ)。
同メディアでは、LGBTに関するコンサルティングを行うNPO法人「虹色ダイバーシティ」の村木真紀代表が、条例の制定は、「革新的」な変化だと評価する一方で、最終的には、国としての法律の制定が必要だと述べている。しかし、安倍首相は、防衛のための改憲はすすめようと努力しているが、同性婚については、憲法の従来の解釈を変えることに気が進まないようだ、とブルームバーグは皮肉な口調だ。
◆日本社会の特徴
これに対し、APは、日本の文化的背景を報じている。同メディアは、日本が周りとの協調に大きな価値を認めている国で、異質であることはひどいトラウマとなる、と解説した。また、ロイターも、条例は制定されたが、現在の日本では、公に同性愛者と名乗ることはタブーだ、と報じる。
「異質ではない」と考える人々が自分たちと違う存在を不安に思う、という傾向は社会のあらゆる場面で見られるものかもしれない。性的マイノリティの「多様な生き方」を讃えるパレードを開催している「東京レインボープライド」の杉山文野共同代表は、LGBTの人々のような生き方もあるということを、社会に受け入れて欲しい、と述べた。「異性間カップルの権利を奪おうとしているわけではない」と、警戒心を解くよう説明し、「変わるべきは社会だと思う。私たちじゃない」(AP)と社会の変化を求めた。
◆政治的・経済的意味
ロイターは、アメリカでは13州を除く全ての州で同性婚が認められている、と日本との比較を示しているが、そのアメリカでは最近、時代に逆行するかのような動きがみられた。
インディアナ州のマイク・ペンス知事は3月27日、LGBTへの差別につながるとみられている法律の施行に署名した。「宗教の自由回復法」は、事実上、企業がLGBTの人々に対し、信仰を理由に、サービスの提供を断ることを認める法律だ、と米ビジネス紙「インターナショナル・ビジネス・タイムズ(IBT)」は解説している。米国内の30の州が、何らかの形の「宗教の自由回復法」を制定しているが、インディアナ州の法は、LGBTの人々に対する擁護が含まれていない点で、大きな違いがあるという。
ペンス知事の行動には激しい抗議が生じた。著名人らが法律への反対を表明し、同州へのボイコットが展開されているのだ。「LGBTリサーチ・アンド・コミュニケーションズ」のローラ・ドゥルソ氏は、経済活動への影響をすぐに推測はできないが、調査では、LGBTを擁護する「良い行動」を示す企業を人々は支持し、差別をしない企業に金を使いたいと多くの人が考えていると述べた(IBT)。法案が公になって以来、これまでに、インディアナ州は、4000万ドル(47億8000万円)を失った、との推測を同紙は報じた。
渋谷区の条例制定について、LGBTコミュニティーの中にも、東京のイメージを世界によく見せようとの政治的な目的のためではないかと心配する声もある、とロイターは報じているが、アメリカでの動きをみると、それも重要な側面なのかもしれないと考えさせられる。