日本の小説がイギリスでブーム 何がウケているのか?
イギリスではここ数年、翻訳文学の人気が高まっているという。そのなかでも注目されるのが日本の作家の小説だ。村上春樹、吉本ばなななどの先駆者に続き、新たな日本人作家の作品が支持を得ており、言語や文化の壁を超えた魅力が評価されている。
◆翻訳小説ブーム到来、日本作品が絶好調
2022年のニールセン・ブックスキャンの販売データによれば、イギリスにおける翻訳小説の売り上げの25%を、日本の小説が占めていたという。さらに、今年の翻訳小説の上位40作品のうち43%が日本の作品となっており、日本の小説がブームを迎えていることが分かる。(ガーディアン紙)
現代日本小説の人気は、決して新しい現象ではない。1990年代には、村上春樹、吉本ばななといった作家が注目されるようになった。疎外感、シュールレアリスム、社会的期待への抵抗といったサブカルチャー的要素を強く持つことが、この2人の共通点だったとガーディアン紙は述べる。現在は幅広い作家の作品が紹介されているとし、柚木麻子、村田沙耶香、川上弘美、川上未映子などの名前をあげる。
◆癒やし効果に注目 SNSも人気に貢献
翻訳小説が人気となった理由の一つとして、ガーディアン紙はブレグジット(EU離脱)の影響をあげる。当時EU残留を支持した若者は、上の世代とは違って海外文化への抵抗感がなく、外の文化とつながっていたいという思いから海外作品をクールだと感じているのではないかと指摘している。
なかでも日本の小説が注目されるのは、その癒やし効果のためだと女性誌ハーパーズ・バザーは述べる。村上春樹作品を例に、たとえ幾重にも重なった物語の中にいる複雑な登場人物を描いているとしても、あるのはなにか心落ち着き安らぐものだとする。まるで病気のときの温かいスープの一口、または寒い夜の毛布の温かさのようだとし、癒やされたいときには、川口俊和、八木沢里志、夏川草介、小川洋子、青山美智子などの作品がおすすめだとしている。
スペクテイター誌も、ある種の癒やし効果を指摘する。政治、人種差別、性差別、気候変動といったテーマに疲れた人々が、日本の小説をオアシスとして捉えているという見方を紹介。深刻なテーマが扱われていないわけではないが、その場合も控えめな方法でメッセージが送られているとする。
さらに、ブームに一役買っているのは、間違いなくソーシャルメディアだと同誌は述べる。あらすじや最新作についてのディスカッションを盛り込んだ#Japanesebooksでラベル付けされた投稿は、プロモーションビデオの役割を果たしており、10万回以上再生されているものもあるという。
◆西洋人好み? 作品の偏りは事実
もっとも、日本の小説ブームにおける問題点も指摘されている。日本文学についてのウェブサイトを運営するアリソン・フィンチャー氏は、イギリスでは日本で人気のジャンルや作品が紹介されていないことも多く、特定の視点で選別・監修されたものに偏っているのが事実だとしている(ガーディアン紙)。
スペクテイター紙は、日本の名作を西洋人好みに少しアレンジし、さりげなく、しかし巧みに売り込むのが日本流としている。しかしガーディアン紙は、ブームは過ぎ去るもので、結局のところジャンルや言語を超えた普遍性に訴える作品が売れるフィクションだとしている。