曽野綾子氏の産経コラム、海外紙批判の理由とは 安倍政権「元アドバイザー」が影響?
11日付産経新聞朝刊に掲載された、作家の曽野綾子氏のコラムに対し、国内外で非難が巻き起こっている。海外紙の批判の背景には、安倍政権との関係、産経新聞の過去、訳の問題などがある。
◆人種差別許容ととれるコラムが問題視
コラムは、慎重に法制度を設計したうえで、介護の労働移民受け入れを説くものだ。同時に、南アフリカ共和国で行われていた人種隔離政策「アパルトヘイト」撤廃後の混乱をあげ、居住区は別にすべき、と主張しているようにとれる。
この点が特に問題となっており、南アフリカのモハウ・ペコ駐日大使は14日までに、産経新聞社に抗議文を送付した。同社によると、大使は「アパルトヘイト(人種隔離)を許容し、美化した。行き過ぎた、恥ずべき提案」などと記しているという。
対して曽野氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙の取材に対し、「記事に誤りがある場合は、私はそれを訂正します。私は人間であり、間違えることもあります。しかし、あの記事に誤りはありません」と答えている。産経新聞も、「コラムについてさまざまなご意見があるのは当然のことと考えております」として、問題はないとの認識を示した。
◆安倍政権の元アドバイザーという過去がニュースに
タイム誌、独シュピーゲル、中国国営新華社通信、朝鮮日報など、様々な海外メディアが、今回のコラム問題を批判的に報じている。
背景の一つに、曽野氏が安倍晋三首相の「教育再生実行会議」の有識者だったことがあげられる(2013年10月31日まで)。ロイターなど複数メディアは、「安倍首相の元アドバイザー」などとタイトルに明記している。英インディペンデント紙は、曽野氏は保守系のベストセラー作家であり、愛国教育を復活させる安倍首相の支援者だ、と紹介した。
一方WSJ紙は、曽野氏を、敬虔なカトリックであり、アフリカやアジアでの支援を行う海外邦人宣教者活動援助後援会の代表も務めている、と紹介した。
◆産経新聞、ユダヤ人中傷広告で謝罪の過去
次に、産経新聞の過去も影響しているようだ。同紙は昨年、東日本大震災はユダヤ人のせいだ、という書籍広告を掲載し、謝罪を余儀なくされた。英インディペンデント紙は、「さまざまな意見」を「当然」とする同紙の姿勢への疑問を示唆している。
◆意訳が拡散してしまう可能性も
また、訳の問題も無視できない。英テレグラフ紙などは、曽野氏が下記のように書いたと報じている。“南アフリカで、黒人のアフリカ人は白人用だった地域を台無しにした。彼らは日本でも同じことを行うだろう”。
しかし曽野氏は、「彼ら(黒人)は日本でも同じことを行うだろう」とは述べていない。白人が住んでいたマンションに黒人が住み出した後、水道トラブル等から、白人が逃げ出した、と例をあげてはいる。ただ、(日本人と)外国人との居住は別にすべき、という主張にとれるため、その論拠としてこの例をあげた、と解釈されてしまったと考えられる。コラムは紙面限定のため、原文で読める、もしくは読む機会のある海外の読者は少ない。いったん海外メディアに上記に紹介されてしまうと、これが事実と認識されてしまう可能性は高い。
◆外国人蔑視ととれる部分も
またWSJ紙は、外国人介護者の説明が屈辱的だ、とも批判する。コラムでは、介護の労働移民に必要とされるものは「優しさ」だけであり、「ある程度の日本語ができなければならないとか、衛生上の知識がなければならないとかいうことは全くないのだ」と記されている。