60年ぶり農協改革、「安倍首相は形だけの勝者」? 海外メディアは踏み込み不足を懸念
JA全中(全国農業協同組合中央会)は9日、政府自民党の農協改革案を受け入れる方針を表明した。米国メディアは、TPP交渉の行方と絡め、「日本最大の農業ロビーがアベノミクスの構造改革を受け入れた」などと報じている。
◆JA改革は、アベノミクス“第3の矢”の勝利
自民党の改革案の骨子は、農協法に基づく組織と位置づけられてきたJA全中を、5年後の2020年3月末までに一般社団法人に組織改革するものだ。併せて、各地域の農協の財務諸表を調べる監査部門を切り離し、新たな監査法人に移行させるとしている。4月の国会で審議され、可決される見込みだという(ブルームバーグ)。
米政治アドバイザリー機関『テネオ・インテリジェンス』のアナリストで、『笹川平和財団USA』の研究員でもあるトビアス・ハリス氏は、WSJのコラムで「これは、アベノミクスの“第3の矢”と呼ばれる構造改革の大きな勝利だ」と評価している。JA全中は、「監督機関の束縛を受けず、一般企業のような税金が課せられない」という特権を剥奪されることになる。
ただし同氏は、この改革は象徴的なものだ、とも述べている。JA全中の影響力制限だけでは、何十年も続く日本の農業の衰退を覆すことはできないためだ。
◆TPP交渉前進への期待も
だからこそ、海外メディアが注目するのは、改革案と表裏一体にあるとされるTPP交渉の行方だ。ハリス氏は、日本の農業の抜本的改革を図るためには、TPP締結と農協改革をセットで進める必要がある、と結論づけている。
ブルームバーグは、安倍首相が農協改革の突破口を開いた、と評価する。その背景には、TPP反対の先鋒に立つJA全中の政治的影響力を弱める狙いがあるとした。「これは明らかに安倍政権のJA全中に対する勝利だ。JAシステムの改革は、TPP交渉を前進させるだろう」とする、識者の報告書の一節を引用している。
◆これ以上の改革は無理、実質的な勝者はJA全中との見方も
一方ロイターは、「安倍首相は形だけの勝者で、実質的な勝者はJA全中の方となるだろう」という、匿名希望の日本の識者の見方を紹介している。
この識者は、自民党内では今も、4月の統一地方選への影響を心配する慎重論が根強いと指摘。自民党の農村部の集票・集金マシーンと化している農協を敵に回す恐れがあるため、これ以上踏み込んだ農協改革を進めるのは難しいという見方だ。
ハリス氏も、「今回の改革でJA全中が(日本の農業の)主流から外れるわけではない。今後も農業利権の中心となり、農家をまとめあげる役割を果たし続けるだろう」と分析する。ただし、それでも、一般社団法人化という「法的な地位の変化」により、JA全中は政治的な影響力や特権を失うと見る。それによって、ロビー活動による“妨害“もなくなり、今後の農業改革が進めやすくなるとしている。