人質事件で憲法改正促進? 日本は「自主防衛」すべきと日米識者が主張
過激派組織「イスラム国」(ISIL)による日本人人質殺害事件を受け、今後の日本の安全保障や平和憲法改正の動きに注目が集まっている。多くの海外メディアが関連記事を掲載する中、米フォーブス誌は、「日本は国際社会に参加し、自ら武装しなければならない」とする論説を掲載。米ナショナル・インタレスト誌にも、「日本は防衛力と世界平和に対する責任を再検討する時期に来ている」とする記事が専門家から寄せられている。
◆「真剣な国は自分の身は自分で守るものだ」
米シンクタンク「ケイトー研究所」シニアフェローのダグ・バンドー氏は、フォーブス誌への寄稿で、人質事件が今後の日本の国際社会での役割に関する議論の引き金になったとしている。特に、今後の日米同盟の行方に注目している。同氏の主張は、「これからの日本の確実な防衛は、強力な日本独自の軍隊によってのみ実現する」というものだ。
バンドー氏は、日米安保条約が施行されて以降、アメリカが日本の防衛を担っている間に日本は世界有数の経済大国に成長したと指摘する。しかし、世界情勢が大きく変化した今、そうした「従属的とさえいえるアメリカ依存体質」は、逆効果になったと主張。アメリカ側にも「もはや日本のような裕福な同盟国を守る余裕はない」とし、「不平等とも言える大きな代償を払ってまで日本を守ることに限界を感じ始めている」と記す。そのため、日本に残された最も確実な道は“自主防衛”だというわけだ。
安倍政権は先月、過去最高の約4兆9800億円の防衛費を閣議決定したが、バンドー氏は、「それでもGDPの1%以下という低い水準だ」とし、相変わらずアメリカの軍事力の傘に頼る体質を批判する。そして、「真剣な(大人の)国は、自分で自分を守るものだ」と、「少しのお金を守るために自らの未来を他国に委ねる」ような処世術はもう通用しないとしている。
◆アメリカは尖閣問題に関わりたくない?
尖閣問題について、バンドー氏は、「“周辺的で小さな争い”にワシントンは日本ほどの関心はない。その島々の価値はワシントンにとっては非常に小さい」と見る。そして、中国の軍事力に対抗するための莫大なコスト負担は割に合わないと、米側が考えてもおかしくないという。安倍首相の自主防衛に対する積極的なスタンスはそうした現実を反映したもので、米側も強く支持しているというのが同氏の見解だ。
ナショナル・インタレスト誌に寄稿した、米シンクタンク「ウィルソン・センター」の後藤志保子氏も、同様の見方をしているようだ。同氏は、日米同盟はこれからも強固であり続けるものの、「アメリカは今後も世界中の危機に対処するために多方向に引っ張られるという事実は無視できない」と記す。そのため、アメリカは尖閣問題などの周辺的な事態に対応する余裕はないと考えた方が良く、日本は独自の防衛力を見直す時期に来ていると同氏は考えているようだ。
バンドー氏、後藤氏共に、日本の軍事力拡大や、集団的自衛権の行使容認、邦人救出のための自衛隊の海外派遣などを可能にする憲法改正には、国内の反対が多いことにも触れている。バンドー氏は、9条改正に反対する世論が盛り返しているというデータを挙げた上で、「決めるのは日本国民だ。平和的な遺産を守りたいのならば守ればいい。しかし、もう米国に守ってもらうことを期待してはいけない」と釘を刺している。
◆憲法改正は中韓を怒らせるとNYT
一方ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、人質事件の衝撃により、日本国民が安倍首相の強硬路線に同調するかはまだわからない、とみている。
朝日新聞などによると、安倍首相は4日に船田元・憲法改正推進本部長と会談し、憲法改正の国会発議とその賛否を問う国民投票の時期について、参院選後の実施が「常識だろう」という認識で一致したという。菅官房長官は、「(参院選後という)締切を設定したわけではないと思う。(憲法改正には)もっと国民的な議論が必要で、そのためにもっと努力しなければならないということで両者が同意したということだ」とフォローしている。
これらの最新情勢を受け、NYTは「9条の改正は間違いなく中国と韓国を怒らせる」とコメントした。